◇田中須美子さん(94)《10》一緒に働く価値がある

 

◆クラロン会長

 障害のある子たちが33人、働いています。

 障害者だから特別に採用しているわけではありません。障害がある社員は創業の時から働いていて、ごく自然な事です。

 「仕事になじめるよう、まず友達をつくってください」。この言葉を送り、障害のある子どもを迎え入れます。

 採用後は先輩たちと2、3人で協力して仕事をしてもらいます。この子たちを社内で孤立させないためです。それから運動着を作るさまざまな工程に携わらせて適性を判断し、一人一人に合った仕事を任せます。一人で難しい場合には作業を分けることもあります。

 障害のある子たちは、どんな仕事にも一生懸命です。生地を運ぶ力仕事でも、完成した運動着を畳んで仕分ける作業でも黙々と仕事に取り組みます。「働くのが楽しい」と言って、風邪をひいても会社に来る子もいます。それが障害のある子たちの良いところ。ひたむきな彼らの姿は社員みんなの良い手本です。

 一方で健常者の社員も自然に障害者に優しく接し、会社全体が和やかな雰囲気となっています。健常者と障害者が一緒に仕事をすることは互いに利点があると思います。

 私には心遣いの足りない失敗があります。

 県立盲学校(現視覚支援学校)の生徒を招いた社内見学でのこと。倉庫を案内していて、思わず「電気をつけるのを忘れた」と言ってしまいました。すぐに失敗に気付きましたが、もう後の祭りでした。

 江戸時代の国学者塙保己一(はなわほきいち)の「さてさて、目明きとは不自由なものかな」という一節を思い出します。明かりが必要なのは目が見える私たち。子どもたちは目が見えなくてもほかの感覚で理解できます。だから、生地やミシンに触ってもらい体験してもらいました。

 私にとって「人の身にならなければ本当に理解することはできない」という教えとなりました。障害のある人も、そうでない人も人にはいいところが一つ以上あります。あの社内見学以来、人と会ったら何か一つは吸収しようと心掛けています。