◇田中須美子さん(94)《11》私の方が守られていた

 

◆クラロン会長

 二人三脚で働いてきた夫が2002(平成14)年3月、入院してわずか3カ月で亡くなりました。

 私は絶望のあまり立ち上がることもできず、病に伏しました。でも私を思う社員の心に支えられ、社長を継ぐことを決意しました。退院して初めて工場に出勤した時、1人の男性社員が駆け寄ってきました。

 その子はK君。自閉症の傾向のある子です。採用時の書類には「情緒不安定で時々奇声を発する」とあり、それが原因で前の職場を解雇されました。でも夫は彼を採用したのです。

 K君は入社後も、工場内に響き渡るほど大きな声を上げて踊り出しました。ほかの社員が仕事を中断することもしばしば。夫は、彼の心を落ち着かせるために名案を考えました。

 一つは倉庫に行き2人で大声を出すこと。2年ほど続けると、K君は奇声を発することが少なくなりました。もう一つが、彼を抱き寄せて肩をトントンとたたいてあげること。彼は、夫を見つけると肩をたたいてもらい、ニコニコして仕事に戻りました。このやりとりは、夫の入院で終わったと思っていました。

 ところが彼は、出社した私を見つけて「肩、肩」と言いながら近寄り「社長さん、頑張って」と言ったのです。予想外のことに私は一瞬戸惑いましたが、生前の夫と彼の姿を思い出し、肩をトントンとたたいてあげました。

 彼は自分をかわいがってくれた社長が亡くなり、残された私をどう慰めるのか考え、私が工場に来るのを待っていたのだと思います。それが「肩トントン」。亡き夫の思いが彼の中にしっかりと留まっていると感じ、涙が止まりませんでした。その彼はもう44歳です。

 会社に行けば、K君のように一緒に働いてくれる障害のある社員がいます。そのことに気付き、私は立ち直ることができました。

 障害のある子を助けていると思っていたのは間違い。私の方こそ、この子たちに癒やされ、守られていると気付きました。私に生きる力を与えてくれるこの子たちに、愛と「ありがとう」をささげたい。