◇田中須美子さん(94)《15ー完》 人生の道、何十本もある

 

◆クラロン会長

 「令和」という新しい時代を迎えました。私は大正、昭和、平成、そして令和と四つの時代を生きたことになります。

 92歳で亡くなった母も明治から平成と、私と同じく4時代を生きました。母の年を超え、年齢というものを少し感じています。

 今の社会を見渡すと、女性が家庭にいる時代でなくなり、多くの女性が社会で活躍しています。一方で働き方改革が叫ばれ、働くことが罪悪であるような感じを受けます。

 「人はなぜ働くのでしょうか」
 数年前、高校生との座談会で質問を受けました。そのことを私は当時、深く考えたことがありませんでした。法大大学院教授(当時)の坂本光司先生に尋ねると「人の役に立ち、人に愛され、人に必要とされるため」と教えられ、納得しました。夫が残した理念と同じだったからです。

 クラロンの理念は「みんなが望む健康、みんなに優しいスポーツウエア」。健康で長生きしたいという人を手助けしたいと願い、私たちは運動着を作り続けています。

 夫も平成になる半年ほど前、福島民友新聞の「私の半生」という欄で執筆しました。同じ時代の変革期に、私もこうして人生を振り返っていることに何かの縁を感じています。

 思えば、私の道は決して一本道ではありませんでした。若い頃は「一つの道を見つけて生きていきなさい」と教えられましたが、人生の道は何十本もあることを知りました。

 分かれ道で選択を誤ることがあったかもしれませんが、間違えたら引き返せばいいだけのこと。引き返しても「きれいな花があったなあ」と得をした気分になれることも大切ではないでしょうか。

 夫を亡くして生きる希望を失った時期もありましたが、私は今、幸せで仕方がありません。これからも多くの社員に感謝して悔いのない人生を生きていきたいと思っています。

 連載中、励ましの手紙や電話をもらい、さらに人生を生きるための力となりました。ありがとうございました。