【TRY・湯守(下)】源泉の流れ道...岳を守る『少しのお湯』

 
土砂崩れが起きた源泉地帯。手作業で土砂を取り除き、お湯の通り道を復活させた場所だ

 源泉から二本松市の岳温泉までの「湯樋(ゆどい)」を保守管理する湯守へのトライは、最後の作業となる源泉地帯での確認作業に移った。(報道部・弥永真依)

 源泉からお湯が流れているのかを確認するため、1カ所ごとに見回る作業だ。親方の武田喜代治さん(69)に連れられ源泉地帯にたどり着いたが、想像と違う光景が広がっていた。

 源泉地帯が土砂に埋まっていた。勝手にお湯の湖が一面に広がる光景を想像していたが、現実は異なった。「ここが源泉が流れ出る所だよ」。武田さんが指さした場所に目を凝らすと、40センチほどの小川が流れている。

 「湯の量が少なすぎでは!」。その言葉しか思い浮かばない。源泉から目線を上げると、自分の身長を超す岩の山が周りを取り囲んでいることに気付いた。「全部土砂崩れの岩なんだよね」。武田さんの言葉に思わず耳を疑った。

 東日本大震災があった2011年の9月に大雨の影響で大規模な土砂崩れが起きた。それから約9年。重機が入れない場所のため、武田さんら湯守が手作業で補修作業を続けている。

 全体の湯量が元々少ないため、一つでも源泉を欠くことは許されない。土砂で埋まった源泉を掘り起こし、流れを復活させた場所もある。今後も大雨などで状況が悪化する可能性があり、土砂との格闘は続くという。

 記者も一緒に源泉の確認作業を続けると、武田さんは「少しのお湯を無駄にできないからね」と一言。源泉を見つめながら話す姿には使命感がにじんでいた。ここで作業を終えて来た道を戻り、「湯守軍団」の皆さんとお別れした。疲れを取ろうと、近くの足湯を訪れた。冬山で凍えた足は次第にほぐされ、体も心も生き返った。

 しかも肌がすべすべ。「毎日入りたい」。静岡県出身の記者もすっかり岳温泉に魅了されていた。湯船では良いことばかりの温泉も、湯守の命がけの作業があってこそだと思い出す。「ありがとう」。自然と感謝の言葉が湧き出てきた。

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 岳温泉の源泉地帯 安達太良連峰を構成する鉄山の南面直下に豊富な源泉地帯がある。源泉は15カ所あり、小さなお湯の流れを1カ所にまとめ、約8キロ離れた温泉街まで引き湯している。源泉の温度は32~80度あり、それぞれ成分が異なる。