【参院選・最前線ルポ】浜通り 帰還者にお願いコール...響かず

 

 「復興を掲げる候補者の生の訴えを聞きたい。ただ、ここに来ても票は稼げないけどね」。会社員の男性(42)は、6月に入居したばかりの大熊町大川原地区にある災害公営住宅で皮肉交じりに言い放った。参院選の公示後、町内で選挙カーを見掛けていないという。災害公営住宅の前に並ぶ候補者のポスターも、どこか現実感に欠けているとの思いだ。

 4月に一部地域で避難指示が解除された町の居住人口は6月4日現在、推計で694人。公示後最初の日曜となった7日、候補者は人口が集中する中通りに遊説の進路を取り、震災と原発事故で甚大な被害を受けた浜通りに「お願いコール」は響かなかった。

 浪江町出身の男性は長引く避難生活の中でも双葉郡への思いを断ち切れず、大熊町で育った妻(45)の希望もあって同町での生活を選んだ。町内では今月中旬、雑貨店と電器店が営業を再開する予定だが、災害公営住宅で過ごしたこの1カ月間は「想像以上に不便だった」。目の前の生活に必死な自分と、候補者が掲げている「復興」の言葉にギャップを感じている。

 震災後、町内での開業第1号となった商業施設「ヤマザキショップ大川原役場前店」。同店長(29)は6月3日の開店から1カ月で地元のいわき市と大熊町との差を痛感した。買い物客は町職員と作業員が中心で、若い住民の姿を見掛けない。同店長は復興施策について、こう考える。「長い目で寄り添うことと町の再生を急ぐことを両立すべきだ。そうじゃないと、離れた人は戻ってこない」

 復興を巡り舌戦

 森雅子と水野さち子は公示翌日の5日、相次いで「浜通り入り」した。

 森は地元いわき市や楢葉町で街頭演説し、政権与党の強みをPR。復興・創生期間後を見据え、「復興庁の後継組織を必ずつくり県民の要望を反映させる。自民党政権がつくった復興の流れを止めるわけにはいかない」と強調した。

 水野はいわき、南相馬、相馬の各市で演説。安倍政権下での老後資金2千万円問題や経済格差の進展、消費増税は復興途上である本県にこそ影響が大きいと力説。「安倍政権にノーを突き付けることが福島の役目だ」と気勢を上げた。

 田山雅仁は4日の第一声で、復興では「十分な支援と資金が行き届いていない」と訴えた。

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 参院選福島選挙区では1議席を巡り、女性候補を中心に議席を争っている。復興に加え、震災で顕在化した人口減少など課題が山積する本県。県民の生の声から選挙の意義を問う。(文中敬称略)