米国訪れ福島県産の魅力発信 内堀知事、農産物輸出拡大へ展望

 
本県の復興の現状や今後の政策について話す内堀知事

 内堀雅雄知事は、県産食品の輸入規制が撤廃された米国を訪れ、政府や市場、報道関係者らに県産品の取り扱い拡大に向け直接働き掛ける方針を示した。昨年9月の規制撤廃で県産米の本格的な輸出が始まったことから、コメをはじめとする県産農産物の魅力を自ら発信する。輸入規制が緩和された台湾でも生産者や関係機関との意見交換を始め、輸出再開に向けた準備を進める。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から丸11年に合わせ、福島民友新聞社が7日に行った取材で答えた。

 原発事故後に55カ国・地域が導入した輸入規制は14カ国・地域に減少した。昨年はシンガポールと米国が規制を撤廃、欧州連合(EU)が緩和し、今年2月には震災前に県産農産物の大口の輸出先だった台湾が規制を緩和した。

 内堀知事はこうした動きに対し「県産農産物の輸出拡大と福島の復興をさらに前進させる大きな力になる」と述べた。また、知事就任後に十数カ国を訪れ、県産品の安全性や魅力を伝えてきた経験から「対面での情報発信は極めて重要だ」と強調。新型コロナウイルス感染症が一定程度収束していることを前提とした。県は本年産の新米が流通する秋以降の実施を想定しており、感染状況などを踏まえ詳細を詰める。

 内堀知事は福島第1原発で発生する処理水の海洋放出方針を巡り、国と東電に対し、行動計画に基づく情報発信の強化や関係者への丁寧な説明、新たな風評への懸念が生じないよう責任を持って取り組む重要性を訴えた上で「追加対策や支援内容の見直しも含め、万全な対策となるよう求めていく」と述べた。

 国による関係者への説明や意見交換の中で「海洋放出に反対したり慎重な判断を求めたりするなど、さまざまな意見が示されている」とし「廃炉と汚染水、処理水対策は長期間にわたる取り組みが必要で県民や国民の理解が極めて重要だ」と強調。関係団体や自治体からの意見を真摯(しんし)に受け止めた上で万全な対策を求めていく考えを示した。

 世界に誇る「復興の地」へ

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から丸11年となるのを前に7日、福島民友新聞社のインタビューに応じた内堀知事は「一人一人が復興を実感し『被災の地』から世界に誇る『復興の地』と呼ばれるよう全力で取り組む」と12年目に向けた決意を述べた。(聞き手 編集局長・小野広司)

 ―震災、原発事故から11日で丸11年。復興の進捗(しんちょく)と課題は。
 「葛尾村、大熊町、双葉町で特定復興再生拠点区域(復興拠点)での準備宿泊が開始されるなど、新たな段階に向けて大きな一歩を踏み出した。一方で、今なお3万3000人超が避難生活を続けている。復興再生は途上であり、避難地域では復興のステージが進むにつれて顕在化する新たな課題に直面している」

 ―第1原発で発生する処理水処分を巡り、海洋放出方針を決めた政府が実施のめどとする来春まであと1年。現状をどのように捉えているか。
 「国が昨年末決定した行動計画では国内外への情報発信や農林水産業、観光業に対する具体的な対策、中長期的な取り組みの方向性が示された。一方で、反対や慎重な判断を求める意見などもある。廃炉と汚染水・処理水対策は、長期間にわたる取り組みが必要であり、県民や国民の理解が極めて重要。国、東電には引き続き関係団体や自治体からの意見を真摯(しんし)に受け止め、追加対策や支援内容の見直しも含めた万全な対策となるよう求めていく」

 ―帰還困難区域を巡る復興拠点内、拠点外の復興を県としてどのように支えていくのか。
 「これまでも課題解決に取り組んできたが、今後は避難指示解除後の帰還、定住に向けた動きを確かなものとするためハード、ソフト両面から拠点区域のさらなる環境づくりを進めていく。一方、拠点区域外は帰還意向のない住民の土地や家屋などの取り扱い、住民の意向確認の方法、除染の手法や範囲の具体化などの課題が残る。国に対しては各自治体の意向を踏まえながら、最後まで責任を持って対応するよう訴えていく。県としても環境づくり、必要な支援を継続していく」

 ―政府が浜通りに整備する福島国際研究教育機構について、県はどのような組織を目指すのか。
 「研究環境と生活環境が整い、世界に冠たる拠点となった機構を核にしたまちづくりが進むことで世界中から多くの人々が集まり、浜通りの再生につながる。立地場所は研究テーマや必要な施設など、国が必要な条件を示すことが必要。適切な時期に市町村の意向を確認しながら、効果が最大化される地域を選定する。全町避難を余儀なくされた地域に拠点ができれば、地域が劇的に変わっていく」

 ―本年度は米国をはじめ県産農産物の輸入規制の解除、緩和が進んだ。海外展開に向けた販売戦略は。
 「(解除、緩和は)県産農産物の輸出拡大と福島の復興をさらに前進させる大きな力になる。米国では既に本格的なコメの輸出がスタートしており、より勢いを加速させるためにも、私自身が訪問して政府、マーケット、報道関係者に直接、働き掛けを行いたい。台湾でも生産者や関係機関との意見交換を始めるなど、輸出再開への準備を進めていく。復興に向けて積み重ねてきた努力と苦労、そして『Fukushima(フクシマ)』の誇りを『ふくしまプライド』という言葉に込めて伝え、成果を出していく」

 ―震災から12年目に入り、11月には2期目の任期満了を迎える。今年の意気込みを。
 「県の新しい総合計画がスタートする大事な年。『総合計画を知り、考えてもらう機会の創出』『SDGsを入り口とした連携、協働による県づくりの推進』『成果の創出と見える化』の三つの視点を重視して取り組んでいく。知事就任以来、復興を成し遂げる強い決意の下、本県の復興創生への挑戦を続けてきた。一人一人が復興を実感し、福島を『被災の地』から世界に誇る『復興の地』と呼ばれるよう、各地域が目指す復興の実現に向けて全力で取り組む」