【震災11年・備える力】夜間避難/災害は時間を選ばない

昨年2月の本県沖地震や、今年1月のトンガ沖の海底火山噴火による津波警報は夜間に発生し、避難誘導や情報の周知などの課題が浮き彫りになった。災害はいつ発生してもおかしくはない。専門家は「普段の準備以上のことはできない」と指摘し、夜間の特殊性も踏まえた備えの重要性を訴える。
昨年2月13日深夜、福島市森合町の市営中央団地に住む女性(84)は、読書中に本県沖地震の激しい揺れに襲われた。部屋の明かりはついていたが「外が暗くて周りが見えず、東日本大震災の時より怖かった」。
市内ではこの日、震度6弱を記録した。女性は普段から就寝時に貴重品を入れたかばんを枕元に置くなど、災害への備えは意識していた。ところが、大きな揺れに混乱してしまい「避難すべきか、それともとどまるべきか」など、具体的にどう行動すればいいのか分からなくなった。幸い、市営住宅に市の避難送迎バスが到着したため、女性は行動に移ることができた。「もしあの時誰も来てくれなかったら...」と表情を曇らせた。
防災教育が専門の天野和彦福島大うつくしまふくしま未来支援センター特任教授によると、夜間の災害時は日中と比べ目で見て分かる情報が減ってしまうため、隣近所と情報共有を進めるなどして、被害状況を的確に把握することが重要になるという。最優先は身の回りの安全確保で、逃げ道をどうするかの検討も必要になってくる。
夜間の避難には、懐中電灯や予備バッテリー、ラジオの準備が欠かせない。また、停電の復旧後に傷んだ配線などが原因で起きる「通電火災」を防ぐため、ブレーカーを落としておくことも大切だ。
福島市は本県沖地震の際、市内に17カ所(翌午前2時時点)の避難所を開設した。このうち1カ所では約2時間の停電が発生し、職員は懐中電灯の明かりを頼りにした緊急対応を余儀なくされた。
このため、市は昨年9月に地域全体が停電する「ブラックアウト」を想定し、夜間に防災訓練を行った。避難所施設では、電気自動車による電気の供給など、夜間に明かりを確保するための一連の流れを確認することができた。
しかし、訓練に参加した県LPガス協会県北支部の小林仁一支部長は「避難所の近くにも街路灯を設置しないと、足元が見えず危険だ」と実感したという。市は小林さんらの指摘を受け、非常用の電気スタンドを新たに10台以上購入し、避難所となる学習センターに順次配置する。
実際に課題をあぶり出すためには、夜間の防災訓練は有効だ。だが「けがをする危険性がある」といった理由から、東日本大震災後に実施した自治体は、福島市のほか会津若松市などごくわずかという。
災害は、規模が大きければ行政の支援が行き届かないことも考えられる。天野教授は「災害は時間を選ばない。夜間の訓練も積極的に行うべきだ」と強調し、一人一人の意識改革に加え、自治体が定める地域防災計画に夜間の対応策を盛り込む必要があると指摘する。
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