【震災11年・備える力】個別避難計画/「要支援者」を守る命綱

 
会津若松市が若松第1地域包括支援センターと連携して開いている勉強会。区長会長らに要支援者名簿や個別避難計画の策定手順を案内している=1月、会津若松市

 災害が起きた際、真っ先に手助けが必要となるのは、「要支援者」と呼ばれる自力での避難が困難な高齢者や障害者だ。市町村の現場では、いざというときの支援方法をあらかじめ要支援者ごとに具体的に決めておく「個別避難計画」の作成を急いでいる。ただ「プライバシーを知られたくない」という個人情報の壁に直面し、思うように進んでいない自治体もある。

 「町内会として、避難計画策定や支援にどこまで関わればいいのか」―。会津若松市の中心部にある地区で1月、個別避難計画作りや、その前提となる「要支援者名簿」の作成に向けた勉強会が開かれた。参加したのは市職員や社会福祉を担う若松第1地域包括支援センターに加え、地元の区長会の面々だ。

 勉強会は、市が名簿や計画作成のモデルケースとするために2020年1月から定期的に開いている。市が作成の手順を説明し、地域住民をよく知る区長会の役員が名簿や計画の作成を担う。「町内会として、要支援者にどこまで踏み込んで関われるか」といった課題は出ているものの、効果が確認できれば、ほかの地区にも広げていく考えだ。

 市が地元区長との連携を強めている背景には、個人情報に関する市民の警戒感がある。要支援者名簿を作るため住所や障害の程度などを聞こうとしても「市職員では心を開いてもらえない」と市の担当者。市によると、市内の要支援者は約7800人いるが、名簿への個人情報の記載に同意しているのは6割に満たないという。

 昨年5月の災害対策基本法の改正により、個別避難計画作成は市町村の努力義務となった。県によると、国の調査で計画策定済みか、一部で完了していると回答したのは、県内では39市町村(20年10月時点)となっている。会津若松市同様に、ほかの自治体でも「周囲に知られたくない」などの理由から、要支援者が計画策定に消極的な傾向にあることなどが課題となっている。県は新年度から、先進事例の共有や、実効性のある計画作りに向けた研修会の開催など、自治体への支援を強化していく方針だ。

 会津若松市のモデルケースに協力する鶴城地区区長会の松島武司会長(76)は、高齢の夫婦だけで暮らす家を戸別訪問するなど、要支援者の「掘り起こし」もしながら、名簿の作成を急いでいる。個人情報の提供に抵抗のある人も少なくないが「本音で話し合えば同意してくれる人も多い」という。

 個別避難計画は、災害発生時に要支援者の「命綱」になると信じている。「要支援者を誰がおぶって、誰が運転する車に乗せるのか。はっきり決めておかないと命を守ることはできない」