避難で壊す決断できず...地震続き、荒れる空き家

 
原発事故による避難で空き家となった自宅を訪れた門馬さん。天井の板は床に垂れ下がっていた=南相馬市小高区

 東京電力福島第1原発事故による避難で、空き家となった家屋の荒廃が南相馬市で問題となっている。長期避難で老朽化が進んだことに加え、本県沖を震源とし、相双地方で被害が大きかったおととしと昨年の2度の地震が損傷に追い打ちをかけたためだ。県外避難などで管理不全となり、周辺住民から苦情が寄せられている建物もあり、市は新年度から実態調査に乗り出し、空き家対策を強化しようとしている。

 「思い出をたくさん残してきたが、これ以上は放置できない」。同市小高区で、原発事故前に住んでいた築40年の空き家を訪れた門馬勝秀さん(73)=同市原町区に避難=は荒れた室内を力なく見やった。

 アルバムやテレビ、食器棚。暗い室内に思い出の染み込んだ品々がほこりにまみれ、切なく残っている。「汚くて触る気も起きない」。震度6の地震が連続したことで天井や壁が壊れ、修繕は手遅れに。門馬さんは4月にも解体することを決めている。

 政府は原発事故後、避難区域で期間を限定し、希望者の家屋を無償で解体する施策を行った。環境省によると市全体で2634戸を解体。このうち同市小高区の解体申請期間は2012年12月~16年6月だった。

 後ろ髪を引かれる思いで解体を選んだ人もいた一方、門馬さんは選択しなかった。「火事で焼け、父と借金を背負いながら建て直した家。思い入れがあった。避難生活をやりくりするのに精いっぱいで、すぐに決断できなかった」

 門馬さんは現在、東電の賠償相談窓口に足を運び、賠償の範囲内で解体できないかを相談しているという。「とにかく家を壊し、きれいにして、土地を元に戻さなければならない」。門馬さんは声を振り絞る。

 南相馬市内に1095戸確認

 南相馬市が現在把握している市内の空き家は1095戸(昨年11月現在)。このうち小高区では、原発事故による避難で空き家となっている家屋が多いという。空き家なのか把握できていない家屋も多数あるとみられ、市は新年度から行う空き家の実態調査を通じて全容を把握する考えだ。

 また市は、空き家の活用にも乗り出している。1月には不動産業者などが空き家の相談に応じる窓口「ミライエ」を開設。購入や売買、賃貸、改修、相続、解体などの相談を受け始めた。

 市によると、改修すれば使用できる空き家は多い。市は空き家について、市外からの移住者が住んだり、事務所として使ったりしようと模索が続く。市の担当者は「開設したミライエと連携しながら空き家の利活用を進め、空き家の減少に努めていきたい」と話す。