「有機×水耕」念願の実現 鈴木さん、ミニトマト栽培「質高く」
飯舘村の農業鈴木秀範さん(63)が、カツオの煮汁(ソリュブル)などの有機質肥料を活用したミニトマトの水耕栽培に取り組んでいる。作物に与える影響から、有機質肥料は水耕栽培に向かないとされてきたが、専門機関が開発した技術を活用し、克服した。常識を覆す栽培方法を続ける鈴木さんは「ミニトマトのうまみ向上にこだわり、栽培技術を高めていきたい」と意気込んでいる。
「飯舘で質の高いミニトマトを栽培したい」。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で一時は全村避難を余儀なくされた飯舘村に広がる約6アールのビニールハウスで、ミニトマト栽培と向き合う鈴木さん。震災など多くの困難を経験したからこそ、この地で良質なものを提供したいという思いを強くする。
鈴木さんが新しい栽培方法に取り組もうとしたのは、信条とする「医食同源」を実現させるためだ。学生時代に有機土壌を学び、農協職員として働く中で、有機農業の重要性を実感。農家に転身し、実践して手応えを感じていたところに、震災と原発事故が起きた。農業を続けるため、放射線の影響を事故直後に受けた土壌から離れ、水耕栽培に活路を見いだすようにした。
良質な農作物作りへの模索が続く中、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が開発した栽培方法が目に留まった。それが「有機質肥料活用型養液栽培(プロバイオポニックス栽培)」だった。鈴木さんはすぐに三重県にある農研機構の研究拠点に足を運ぶなどして、栽培方法に関する知識を学んだ。
鈴木さんによると、一般的な水耕栽培は水中に有機質肥料が存在すると水が腐敗し、作物の生育に悪影響を与えてしまうため、化学肥料しか使えないとされてきた。
それに対し、農研機構が開発した技術を使うと、水中に加えた有機質肥料を微生物と硝化菌の働きで分解して養分となり、水が腐敗せず、植物が吸収できるようになるという。鈴木さんは「土壌栽培では、有機質肥料が分解されて植物の栄養になるという仕組みが自然にできている。農研機構が開発した手法は水を『土壌化』したことに意義がある」と強調する。
国内1号の認証取得
当初は苦労もあったが、試行錯誤を続け、昨年6月に付加価値の高い農産物が受けられる日本農林規格の「特色JAS」の国内第1号認証を取得。昨秋には特色JASマーク付きのミニトマトの初出荷にもこぎ着けた。困難に直面しても自分を信じ、挑戦を続ける鈴木さん。「おいしいミニトマトを栽培するのはもちろん、『新しい農業』が注目されることで村に関心を持つ人が増え、移住、交流人口の増加にもつながっていってほしい」と願った。(福田正義)
有機質肥料活用型養液栽培(プロバイオポニックス栽培) 農業・食品産業技術総合研究機構が開発した栽培方法。プロバイオポニックスは「プロバイオティクス(人体に有益な菌、微生物)」と「ハイドロポニックス(水耕栽培、養液栽培)」を掛け合わせた造語。硝化菌と微生物を利用することで、有機質肥料の活用を可能にした。化学肥料に頼らないことから、環境負荷の低減や持続可能な農業につながると期待されている。
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