【エールのB面】演出・吉田照幸さん(上) 思わず箸が止まる朝ドラ

 
よしだ・てるゆき 1969年、福岡県生まれ。93年にNHK入局。主な演出作品にコント番組「サラリーマンNEO」シリーズ、「となりのシムラ」、連続テレビ小説「あまちゃん」など。人気シリーズの映画「探偵はBARにいる3」で監督を務めた。現在は制作局エグゼクティブ・ディレクター。

 テレビ番組は多くのスタッフが力を合わせ、それぞれの役割を果たすことで制作される。今回から登場するのはNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」の演出を務める吉田照幸さん(50)。演出は撮影現場では監督とも呼ばれ、制作陣を指示する要。数々の人気番組を手掛ける吉田さんに、斬新な演出が随所にちりばめられたエールの魅力を聞いた。

 『ライブ感』重視

 福島市出身の作曲家・古関裕而と妻金子(きんこ)がモデルの「エール」。多くの登場人物が個性豊かなキャラクターばかりで目が離せない。
 
 「エールの演出の目標は『思わず朝食の箸が止まる』ような朝ドラです。通常、朝ドラを見るときは朝食を食べながら見ている人が多いと思います。僕の理想はエールに見入ってしまい、食べるのを忘れ、遅刻してしまう状況です(笑)。決め手はライブ感なので、俳優陣の芝居を決め過ぎず、自由に演じてもらっています」

 青年時代に入り、主人公・古山(こやま)裕一を演じる窪田正孝さん、ヒロイン・関内音(せきうちおと)を演じる二階堂ふみさんの好演が光る。キャラクターづくりに、古関夫妻のどんな部分を参考にしたのか。

 「古関さんの自伝を読み、当時のよくいる夫婦ではなく、現代人に近い関係性の夫婦だと感じました。古関さんは才能があるのに内向的で駄目な部分も目立つ。金子さんは当時を考えれば、男性にも自分の考えをしっかり発言する強い女性。この夫妻を変に清廉潔白なおさまりのよいものにはせず、人間くささを生かしたいと思いました」

 全員ボケ担当

 登場人物で気になるのが、裕一が勤める川俣銀行の個性豊かな面々。支店長役の相島一之さん、行員役の松尾諭さん、事務員役の堀内敬子さん、新人行員役の望月歩さんの4人だ。

 「4人は人の『間抜けさ』を考えて創作しました。登場人物を考えるとき、出演者のどの面に光を当てるかを考えますが、裕一の愛らしさや明るさに光を当てるため4人を登場させました。演出では、主役はもとより脇役の人生もしっかり描くことを心掛けています。多様な人物の喜怒哀楽を見てもらいたいです」

 川俣銀行の雰囲気を見ていると、吉田さんが演出を手掛けたコント番組「サラリーマンNEO」シリーズや朝ドラ「あまちゃん」に通じる"笑い"を感じる。

 「僕はコント番組出身なので笑いを大事にしています。川俣銀行では、ツッコミ役はおらず、裕一を加えて5人全員がボケ役。日本の『ボケとツッコミ』とは違い、全員がボケる米国のコメディーを参考にしています。『サラリーマン―』でお世話になった堀内さんに場を回してもらい、ドタバタなおかしさを展開しています。裕一の心の傷を癒やすのに、本当は親身に声を掛けるところですが、行員4人の『底抜けに愛らしいおかしさ』を加えました。必死な姿が笑えるとか、涙する表情がほほ笑ましいとか、そうした瞬間を引き出せたらいいですね」

 15分を4人で

 27日から5週目に入り、いよいよ裕一と音の人生が交錯する。注目してほしいのはどんなところか。

 「ぜひ楽しみにしてほしいのが、裕一と父・三郎(唐沢寿明さん)、音とその母・光子(薬師丸ひろ子さん)の4人の一部屋での密室劇でほぼ放送時間の15分を終える回です。ある驚きの展開もあって、新鮮に感じると思います。これは4人のやりとりだけで15分が成立するのかという挑戦から始まりました。制作陣は誰も見たことのない朝ドラの表現に挑戦し、毎朝皆さんにエールを送りたいと思っています。笑いと不意打ちの感動が入り交じった前代未聞のドラマが『エール』なんです」

 【もっと知りたい】今も残るオルガン

 福島商業学校(現福島商高)を卒業した18歳の古関裕而は1928(昭和3)年5月から2年、伯父武藤茂平(母ひさの兄)の経営する川俣町の「川俣銀行」(後に郡山商業銀行と合併。現東邦銀行)に勤務した。

 川俣は「絹織物製品の町」として知られ海外輸出するほど。古関は伯父方の「居候」となったが絹・生糸の市が開かれる日は忙しく、それ以外は暇。そのため帳簿の間に五線紙をはさんで作曲するなど音楽に明け暮れた。青年時代に古関が使ったオルガンの持ち主は、武藤家出身で古関のいとこの女性。嫁入り道具だったが、場所を取るとの理由から武藤家に置かれた。同町には今もこのオルガンが残る。

今も残るオルガン

〔写真〕古関は川俣町にいた際、このオルガンなどで音楽にのめり込んでいた

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