【ドラマ・西部警察(上)】PART3・9話 福島県内に名優の足跡

 
銃撃戦が撮影されたリステル猪苗代の本館。奥には当時なかったウイングタワーがそびえ立つ

 最近の刑事ドラマと言えば謎解きと人間ドラマが中心だが、昭和の頃は「Gメン'75」「太陽にほえろ!」などハードボイルド路線が中心だった。その昭和最後の男くさい刑事ドラマともいえるのが「西部警察」(1979年10月~84年10月、テレビ朝日系)だ。石原プロモーションが制作し、出演はもちろん昭和の大スター石原裕次郎と、渡哲也ら「大門軍団」。銃撃戦、爆破、カーチェイスなど今では考えられないアクションシーンで人気を集めた。

 すごい存在感

 放送されたのは、なんと236話。このうち県内が舞台の話が2回ある。タイトルは西部警察PART3・9話「白銀に消えた超合金X!福島・前編」と、10話「雪の会津山岳決戦!福島・後編」(83年6月放送)だ。

 記者は、西部警察が好きだった父親の影響で、小学生の頃よく再放送を見ていた。中でも福島編は父親がビデオ録画していて、何度か見た記憶がある。そして、角刈りにサングラスの主人公、団長こと大門圭介役の渡哲也が昨年8月に亡くなり、追悼の思いからDVDを借りて見た。すると郡山駅、会津武家屋敷(会津若松市)、日中ダム(喜多方市)など県民なら知っている場所が数多く登場することを改めて知り驚いた。

 83年3月に撮影された「福島編」のストーリーはこうだ。夢のエネルギー物質「メルカロイX」を盗み、開発者の教授を会津武家屋敷で誘拐した悪の組織を追う大門軍団が本県入りする。教授のめいが郡山市の三万石不二屋(現三万石)勤務という設定で「ままどおる」を作る工場や郡山駅前の本店が登場する。

 早速話を聞こうと三万石に連絡したが、当時を知っている人が見つからず、代わりに写真を提供していただいた。ドラマは郡山本店と郡山安積店で撮影され、写真を見ると店舗を大勢の人が囲んでいる様子が分かる。石原裕次郎と渡哲也が会話する貴重な写真もあった。

 写真だけでは物足りない。やはり当時を知る人に話を聞こうと、ドラマで大門軍団が宿泊した磐梯熱海温泉の萩姫の湯栄楽館(郡山市)を訪ねた。取締役支配人の菅野豊晴さん(40)が案内してくれたロビーの一角には、裕次郎と渡哲也のサインや写真が並ぶ。当時2歳だった豊晴さんは、毛皮のコートを着た大きな人が旅館の玄関から入ってきた姿を記憶している。「存在感がすごく、思わず駆け寄った。それが裕次郎さん」

 では、なぜ栄楽館に泊まったのか。「磐梯熱海温泉で病気を治したとされる萩姫伝説を知った石原プロが連絡をくれた」と豊晴さんの父で社長の菅野豊さん(73)が教えてくれた。闘病中だった裕次郎が温泉でゆっくり体を癒やしたという。さらに「宴会で盛り上がり、裕次郎さんがついお酒を飲んじゃった。当然、止められていたから(石原プロの)小林正彦専務がすごく怒ってね」と当時のエピソードを明かしてくれた。

 栄楽館の向かいにある「湯のまちぎゃらりー」には、当時の写真や資料が数多く展示されていた。中でも裕次郎の妻石原まき子さん(87)直筆のレシピがあるのに驚いた。食材と調理法が細かく指示され、配膳場所まで決まっている。食事制限をしていた夫を気遣うまき子さんの思いが詰まっている。豊晴さんは「ロケ地巡りで宿泊するファンもいる。西部警察で生まれた縁を大切にしたい」と言う。なるほど、次に来るときは裕次郎が入った温泉にゆっくりつかりたい。

 全館貸し切り

 さて前編のクライマックス。敵が潜伏している手掛かりを得た大門軍団は、雪深いホテルリステル猪苗代(猪苗代町)に急行する。記者も、もちろんリステルに向かう。と、現在のリステルには当時なかった18階建てのウイングタワーがそびえ立ち、手前にひっそりと本館があった。この本館が、大門軍団と敵の前線部隊が激しい銃撃戦が繰り広げた場所だ。

 石原プロと親交が深いリステルグループ社主の鈴木長治さん(87)が電話取材に応じてくれた。「当時は全館貸し切りで協力した。近くの砂防ダムに渡さんがヘリで飛んできて銃撃戦をしたり、とにかくスケールが大きかった」と振り返る。「渡さんは紳士で義理堅い男」と評する鈴木さん。ドラマや映画の撮影の合間を縫って何度も猪苗代町を訪れ、リステルが経営する介護施設などを慰問している。「語り尽くせない思い出がある。渡さんは、裕次郎さんとともに日本の宝だった」

 昭和の映画、テレビドラマで輝きを放った名優2人の足跡が県内に今も残っている。(一部敬称略)

ドラマ・西部警察

 【アクセス】萩姫の湯栄楽館は磐越道磐梯熱海インターチェンジ(IC)から車で約5分、磐梯熱海駅から徒歩約3分。ホテルリステル猪苗代は猪苗代磐梯高原ICから車で約10分。

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 【西部警察】石原プロモーションとテレビ朝日が制作したテレビドラマ。パート1~3で全236話放送された。「西部警察LEGEND大門軍団、いま再起動!」(青志社刊)によると平均視聴率14.5%(関東地区)、使用した火薬の量約4.8トン、ガソリンの量約1万2000リットル、飛ばしたヘリコプター600機、壊した車両約4680台、始末書45枚といわれる。

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 【福島編ロケ】解離性大動脈瘤(りゅう)の大手術から奇跡的に生還した石原裕次郎が全国のファンへのお礼として始めた全国縦断ロケの一つ。「西部警察SUPER LOCATION11福島編」(青志社刊)によると、1983年3月12~22日にロケし、費用総額約1億2000万円、エキストラ約700人、ヘリコプター6機、つぶした車40台だという。

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 【萩姫の湯栄楽館】ロケで宿泊した際、石原裕次郎が座右の銘「風行草偃(ふうこうそうふ)」(風行けば草ふらす世のならはしに逆らはず生きる)を揮毫(きごう)した。その書の石碑が貸し切り温泉「湯次郎の湯」にある。(電話)024・984・2135