【映画・フラガール(上)】いわき市、古殿町 空白期間経て花開く

 
ポリネシアンショーで踊りを披露する現役のフラガールたち。映画に憧れてフラガールを目指したメンバーも多い=スパリゾートハワイアンズ

 「大地に光を、果てしない夢を―」

 ゆったりとした「フラガール―虹を」のメロディーに合わせて、優雅な踊りと笑顔を見せる女性ダンサーたち「フラガール」は、スパリゾートハワイアンズ(いわき市)のポリネシアンショーの華だ。そして、25日に県内から始まった東京五輪の聖火リレーでもオープニングで出演するなど、いわきを象徴する存在でもある。

 このフラガールの誕生を描いた邦画が、2006(平成18)年公開の「フラガール」(李相日監督)。大ヒットを記録し、第80回キネマ旬報ベストテンの日本映画第1位、第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ数々の賞に輝くなど、多くの人に愛され、高く評価されている。 

 実話が土台に

 その名作の舞台が、1965(昭和40)年のいわき市だ。石炭から石油へのエネルギー革命に伴い炭鉱が次々と閉山、炭鉱で働く人々が職場を失う中、起死回生の策としてつくり出された「常磐ハワイアンセンター」(現スパリゾートハワイアンズ)の誕生と成功という実話が土台にある。

 「最初は(センター開業当時に常磐炭礦(たんこう)副社長だった)中村豊さんを軸にしたヒューマンドラマになる予定だった」。2004年、製作会社「シネカノン」から映画化の話が持ち込まれた、いわきフィルムコミッション協議会の当時の担当者、金沢秀一さん(61)は振り返る。

 元々いわきは戦後、映画の舞台やロケ地となることが比較的多かった地域だ。しかし、2000年代には、05年に「踊る大捜査線」のスピンオフ(番外編)映画「容疑者 室井慎次」の撮影が行われるなど、ロケ地となることはあっても、「いわきを舞台にした映画」はほとんどなかったという。「"いわき発"の名前に乗っかりたい。ヒットしたら観光の目玉になるかもしれない」。金沢さんは、映画化に二つ返事で全面協力を約束した。

 しかし、その後、映画に関する話はパタッとなくなったという。「没になったのか」と心配した05年、シネカノンの担当者が「フラガール」と仮題が付いた台本を持って再びやってきた。

 「ハワイに行ったことすらない炭鉱娘」が、閉山が迫る炭鉱のまちを救うために、抵抗もある中で一からフラダンスを学んでいく―。ストーリーの原型は、1年を経て大きく変わっていた。金沢さんは「ひとまず『映画を作ってもらえる』と安堵(あんど)感が強かった」と振り返る。

 場所探し難航

 ただ、製作は決まったものの、撮影場所の選定が大きな壁になった。

 炭鉱長屋や炭鉱を象徴する「ズリ山(捨て石の集積場)」、作中で娘たちがダンスを練習するレッスン場―。何げない農道のシーンでさえ、現代の建物や電柱、ガードレールが映り込む場所では撮影できない。当初は市内だけで撮影される予定だったが、県内外に広がった。

 日常のシーンが多く撮影された炭鉱長屋は、茨城県の北茨城市や高萩市に残っていた長屋を活用、採石場の石の山をズリ山に見せかけるなど工夫された。

 蒼井優が演じる主人公・谷川紀美子らがダンスに励む「常磐音楽舞踊学院」に見立てたレッスン場は、最後まで選定が難航した。レトロな外観で広いスペースを備えた場所が必要だったが、当時は同学院の建物がすでに解体されていた。

 候補地が定まらない中で、金沢さんが過去に訪れた旧古殿中寄宿舎を思い出したという。畳をはがしてレッスン用の手すりや鏡を置くなどして、柔剣道などで使われていた空間を華やかなダンサーの練習拠点に仕立てた。金沢さんは「撮影以上に、場所を探すのが大変だった」と当時を思い返す。(一部敬称略)

【映画・フラガール(上)】いわき市、古殿町

 【アクセス】常磐道いわき湯本インターチェンジから車で約5分。JR湯本駅から車で約10分。

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 【あらすじ】一石炭産業が先細る1960年代半ば、いわきの炭鉱では、起死回生策として温泉を活用したリゾート施設「ハワイアンセンター」が計画される。賛否両論が巻き起こる中、センターの目玉として募集されたのが「ハワイアンダンサー」だった。最初の募集に名乗りを上げたのは、炭鉱従業員の娘紀美子(蒼井優)と親友の早苗(徳永えり)、親に連れてこられた小百合(山崎静代)、炭鉱の庶務課職員で子持ちの初子(池津祥子)の4人。初心者であか抜けない彼女たちに、東京からきた元スターダンサーの教師まどか(松雪泰子)の厳しいレッスンが始まる。しかしレッスンは順調にいくわけもなく、まどかの態度は投げやり。紀美子と早苗は、「いわきにハワイなど夢のまた夢」と言う家族との間に厳しい葛藤を抱える。それでも夢を諦めきれない紀美子。彼女たちの情熱にいつしか周囲も...。

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 【大ヒット】映画「フラガール」は、大手の配給会社やテレビ局が絡まず、無名に等しい前評判の作品だった。しかし、石炭産業が衰退したまちを、くじけない心と明るい踊りで救った少女たちの物語が徐々に反響を呼び、興行収入は10億円を超えた。映画人気に引っ張られるように、スパリゾートハワイアンズの入場者も増加、2007年度は過去最高の年間160万人超の来場につながった。