◇田中須美子さん(94)《1》社員からもらった与生

 

◆クラロン会長

 私は一日の大半を会社で過ごします。

 それは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、私はこの春、94歳になりました。でも今も現役。朝10時前には出社して、夕方の6時ごろまで会社にいます。

 私の会社は、福島市の運動着専門メーカーの「クラロン」。63年前に夫の田中善六と創業し、二人三脚で社員130人余りを抱える会社に育ててきました。

 今は会長になって、商談などを社員に任せることも多くなりましたが、私を訪ねてくる人もまだまだ多いです。しかし、この年齢になっても会社に出続けているのは、ほかの何よりも会社が好きだからです。

 会社に行けば、社員みんなの元気な笑顔を見ることができます。社員はみんな友達であり、このうち障害がある社員33人は私の子どもたちです。

 だから私は、社員の顔を見ながら仕事をしたいので、みんなと同じ職場に机を置いて仕事をしています。仕事が終わると社員と話したりして1時間ほど過ごします。いつもみんなから元気をもらっています。

 みんなが働いてくれるから、私は生きていけます。社員には感謝の気持ちしかないです。だから社員が帰る時には「ご苦労さま」ではなく「ありがとう」と声を掛けています。

 私にとって会社は夫の形見でもあります。

 17年前に夫を亡くした時には、生きる気力を失いました。そんな私を救ってくれたのも、夫が日々心を砕いて接していた障害がある社員の笑顔でした。

 「この子たちのために生きよう」

 70歳を過ぎれば、余生と言われることもありますが、私の場合は社員みんなから与えてもらった「与生」、命だと思っています。

 だから今が何よりも大切。会社で働いてくれる社員のために、元気で会社を続けていくことが私の義務だと考えています。

 過去を振り返るのは好きではないですが、一番大切な会社と私との長いお話をしてみたいと思います。

 たなか・すみこ 須賀川市生まれ。九里学園(現米沢女高)卒。県体操協会顧問、県職業能力開発研究協議会顧問、県内の女性による自衛隊協力会「花ももの会」名誉会長。