【建物語】みんなの交流館ならはCANvas・楢葉町 人と人をつなぐ拠点

 
広々とした吹き抜けの館内。町内外の誰でも思い思いの時間を過ごせる場所になっている(永山能久撮影)

 格子状に木材を組んだ重厚感のある大きな屋根と、全面ガラス張りの外観が目を引く。商業施設や公営住宅が集まる楢葉町の復興拠点「笑(えみ)ふるタウンならは」の中心にどっしりと構える「みんなの交流館ならはCANvas(キャンバス)」。館内は幅広い世代でにぎわい、復興へ歩む町の新たなランドマークとなっている。

 交流館は2018(平成30)年7月に開館した。コンセプトは「人と人をつなぐ」。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故による全町避難を経て15年9月に避難指示が解除されたが、町は新たなまちづくりを進める中で地域コミュニティーの再生という課題に直面した。帰還した町民や避難先で生活する人、移住者が絆を強められる拠点の誕生を目指し、町民とともに設計を進めてきた。

住民の要望を形に

 「できたらいいな、こんな交流館」などをテーマに、町は16年10月~18年3月、9回にわたり施設整備に向けたワークショップを開催。主婦や会社員、農家など職業も世代も異なる延べ100人を超える町民が参加し、将来のまちづくりの核となる施設の在り方について意見を交わした。

 「みんなで集まって料理がしたい」。そんな願いから館内の一角に調理室が設けられた。「山を眺めながらお酒が飲みたいな」という希望は、町を代表する郭公山(ほととぎすやま)を真正面に望む和室の設置につながった。「楽器を背負って自転車で走る学生の姿が見たい」との要望から誕生したバンドルームは、ミュージシャンの竹原ピストルさんらからの寄付で購入したドラムセットが備え付けられているのが売りだ。住民の夢やアイデアが館内の機能を一つ一つ形作っていった。

「やりたい」を応援

 施設誕生から3年4カ月を迎えようとする11月中旬、館内の一日を見つめた。開館して間もない午前9時すぎごろ、地元の高齢者ら数人が入館。和室でそれぞれが持ち寄ったお菓子やお茶を味わいながら会話に花を咲かせている。1階のリビングルームに置かれたソファでくつろぎながら読書にふける人もいた。

 正午には若い女性が子どもと一緒に訪れた。歓声を上げながらキッズスペースのボールプールで遊ぶ子どもを見守りながらランチタイムをゆっくりと過ごしていた。夕方になると、2階のワークスペースはテレワークにいそしむ会社員らで席が埋まった。移住促進に取り組む楢葉町の渡辺俊文さん(31)は「オフィスを構えなくてもWi―Fi(ワイファイ)や電源が使えて快適な環境。週4日ほど利用している」と話した。閉館時間が迫った午後8時すぎごろ、仕事帰りの男性がマッサージチェアで疲れを癒やしていた。

 施設の利用方法や過ごし方は原則自由だ。過去には結婚式を挙げたカップルもいたという。設計段階から携わってきた町政策企画課の坂本裕さん(38)は「これほど利用に関する縛りが少ない公共施設は珍しいと思う。住民の『やりたいこと』を応援する施設でありたい」と力を込めた。

 町は復興へ歩みを重ねるが、町内居住者は避難者を含む人口の約6割にとどまるなど課題も多い。館内では若い世代が町の将来について熱っぽく意見を交わす光景も頻繁に見掛ける。「一つ屋根の下」で多くの出会いとともに、地域再生につながるアイデアが生まれていくはずだ。(辺見祐介)

みんなの交流館ならはCANvasの地図

 みんなの交流館ならはCANvas 2階まで吹き抜けの館内には会議や展示会などに利用できる広々とした多目的室もある。屋外には広場があり、イベントなどで活用できる。2階に設置された展望テラスは、山に沈む夕日を眺めることができる人気のスポットになっている。開館時間は午前9時~午後9時。休館日は毎月第2、第4火曜日と年末年始。問い合わせは交流館(電話0240・25・5670)へ。

          ◇

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。