【TRY・湯守(中)】湯の花と『格闘』...想像を絶する力仕事

 
「たわしパイプ」で温泉管の掃除に挑む記者。力仕事に息を切らし続けた

 いよいよ湯守(ゆもり)がこなす仕事の本番がやってきた。源泉から二本松市の岳温泉の温泉街まで約8キロにわたって湯を通す「湯樋(ゆどい)」を保守管理する湯守。最大の使命である湯の花との格闘に挑む。(報道部・弥永真依)

 温泉成分が沈殿などし、湯樋にこびり付いた湯の花を取り除き、お湯の流れを止めないようにする。人間でいうと血管が詰まってしまう状態が起きないように、週に1度掃除しなければならない。

 作業に入ると、ひいひいと息を切らし続けた。掃除に使うのは、先端にステンレス製のたわしが付いた約30メートルもある「たわしパイプ」。「軽そうなパイプを引き抜くだけでしょ。余裕、余裕」。そう思っていた自分が恥ずかしい。

 湯樋の一つである温泉管にたわしパイプを中に入れていく。全部入れたところで、パイプを引き抜いていく。湯の花を取るため、前後に押し引きしながらパイプを引き抜くのだが、「思うように抜けない...」。苦戦する記者にげきが飛ぶ。「もっと腰を入れて!」必死にパイプを引っ張るが、湯守の皆さんの足を引っ張っている状態。また自分の非力さに悲しみを覚えた。

 次は升状の湯だまりから湯の花を取り除く作業だ。「一回でなるべく多くの湯の花をすくうぞ」。夢中になってくわで湯の花をすくいまくる。湯の花は少し重いが、これなら非力な私でもできると闘志に火が付く。湯守の皆さんに「もうその辺にしておいたら」と言われ、われに返ると、湯の花の小山を築いていた。

 同行した親方の武田喜代治さん(69)ら4人は岳温泉管理会社に所属する41~70歳。夏も冬も関係なく、一年を通して作業を行っている。英BBC放送のクルーが今年取材に訪れるなど、近年注目を集めている仕事でもある。

 作業の合間に話を聞くと、後継者不足が現在の課題という。民宿を営みながら湯守の仕事に取り組む親方の武田さんは「代わりの人がいるわけではないので、湯守の仕事はおろそかにできない」と一言。使命感を垣間見た親方に付いていくと、源泉地帯は想像とは違う光景が広がっていた。

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 湯の花 鉱泉や温泉の噴き出し口や流路に生じる沈殿物や付着物。湯の花には硫黄やカルシウムなどさまざまな成分が含まれる。色は黄色で、たまに黒色の湯の花も見られるという。湯の花が固まると、お湯が湯樋から外にあふれてしまうため、頻繁に掃除する必要がある。