【TRY・鷹匠(中)】訓練に同行、片思いが寄り添う気持ちに

 
上から順に、助走をつけるようにタカを放つ鷹匠の技「羽合わせ」を行う高木さん(右)。記者は技を盗もうと高木さんの動きを注意して見続けた

 鷹匠(たかじょう)に弟子入りしたが、オオタカの楓ちゃんとの距離が縮まらない。近づくと翼をばたつかせて嫌がられてしまうのだ。どうやって信頼関係を築くのか。まずは里山での訓練に出掛け、心の距離を縮める。(報道部・坂本龍之)

 「オオタカはタカの中でも特に神経質で臆病なんだよ」。鷹匠歴50年を誇る高木利一さん(70)によると、オオタカは他のタカと比べてかなり慎重な性格。その代わりに狩りの能力は随一なんだそう。

 楓ちゃんと仲良くなるため「据え回し」という訓練に同行した。楓ちゃんを拳に乗せる高木さんと一緒に里山へ移動。訓練では周辺を歩きながら、タカに車や建物など身の回りに何があるかを教え、場慣れすることで互いの信頼関係を築いていく。

 特に人間がいない夜に行う「夜据(よす)え」は、タカとの一体感を高めるには効果的だという。訓練中、ずっとそばにいた記者。目を合わせることで楓ちゃんを怖がらせないよう、伏し目がちに様子をうかがい、自分の存在をアピールし続ける。まるで片思いの男子だ。

 急速に距離を縮めるため実際に鷹狩りにも同行した。シーズンは12月~2月ごろ。県内でも愛好者がカモや野ウサギの狩りをしているそうだ。狩りができそうな場所に着くと、高木さんは楓ちゃんを乗せ、すぐに歩きだした。

 「少し後ろから離れて付いてきてください」と一言。これまでと違った緊張感を漂わせ始めた。しかし、野を越え、山を越え、歩けども獲物は捕まらない。時折、高木さんとタカの存在に気付いた小鳥がやぶから飛び出す程度だ。

 獲物に向け、助走をつけるようにタカを放つ技「羽合わせ」をしても捕まらなかった。「この辺は私たちを見つけるとすぐ逃げちゃうんだよね」。獲物となる動物も生きるのに必死。これまで何度も鷹狩りを行ったせいか、気配やにおいを感じ取った動物がすぐ逃げてしまうようだ。

 狩りの終盤。木の枝にとまったまま、なかなか帰ってこない楓ちゃん。高木さんの元にようやく戻ってくると、どこか落胆した様子。慰める言葉が見つからない。「仲良くなりたい」との一方的な思いが、寄り添う気持ちに変わったことで、楓ちゃんの反応が少しずつ変わってきた瞬間だった。

 鷹狩りする際の姿勢 革の手袋をはめた左拳の上にタカを乗せ、肘を直角に曲げる。腕がふらつくとタカにストレスがかかるため、できるだけ動かさない。タカの重さは1キロ程度。訓練では肘を直角に曲げた状態で水が入った茶わんを拳の上に乗せ、歩いてバランス感覚を養ったりする。