【衆院選・識者に聞く】移住/ふくしま12市町村移住支援センター長・藤沢烈氏

 
「移住の促進に向け、国には継続性のある施策が求められる」と話す藤沢センター長

 関東圏などの5万人を対象に行ったアンケート調査では、20~30代の若い世代ほど福島の復興と移住に高い関心を示していた。東京電力福島第1原発事故で避難指示などが出た12市町村への移住促進に向け、まずは若い世代をターゲットとしているが、住まいをどう確保するかが大きな課題だ。

 働く場はあっても、特に山間部では移住者向けの住宅が乏しい地域もある。沿岸部では復興関連事業者向けの住宅が多く、いわき市や福島市など都市部よりも家賃が高い。移住のメリットとなるはずの住居費の安さは実感しにくいのが現状だ。

 空き家の活用が移住者向け住宅を確保するための有効な手段の一つだが、避難などにより人が住んでいない期間が長かったため、水回りなどの改修が必要となる。円滑に住宅を供給するためにも、改修費用の補助など国のサポートが求められる。

 若い世代にとって仕事や暮らしの中でインターネットが支障なく使えるかどうかも大きな関心事だ。第5世代(5G)移動通信システムの整備を含めたデジタル環境の充実により、遠隔で最先端の授業や専門病院の医師による初期診断が受けられるなど、首都圏など都市部と比べて遜色のない生活の実現に近づく。岸田文雄首相は所信表明演説で都市と地方を5Gで結ぶ「デジタル田園都市国家構想」の推進を掲げた。医療や教育、防災面などで課題が多い12市町村を構想のモデル地域にしてほしい。

 震災、原発事故から10年7カ月が過ぎた今でも帰還するかどうかを悩む住民が多い中、被災地では復興の担い手が不足している。移住者を増やす取り組みとともに、いかに地域に定着してもらえるかが重要な視点だ。

 選挙では福島第1原発の廃炉や放射性物質トリチウムを含む処理水の処分を巡る対応が復興施策の論点として目立ちがちだ。ただ、移住を考える人にとっては新天地での仕事や住まいの確保をはじめ、移住後も帰還した住民との融和やトラブルに直面した際に支えてくれる人がいるのかどうかなど心配事は多い。

 ふくしま12市町村移住支援センターは12市町村と連携しながら移住という人生を懸けた決断に寄り添い、支えていく。どの政党が政権を取るにしても、移住政策の継続性や長期的な支援策について注視していきたい。

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 ふじさわ・れつ 京都市出身。一橋大社会学部卒。米系コンサルタント会社勤務を経て、2011(平成23)年10月に復興に関する調査・企画事業の一般社団法人RCFを設立。今年7月に開所した「ふくしま12市町村移住支援センター」のセンター長に就任。45歳。