「また安波祭見たい」浪江の被災神社再建へ 23年冬目標

 
神社を訪れ、震災前の請戸地区について語り合う五十嵐氏子総代長(左)ら関係者=27日午後、浪江町請戸

 東日本大震災の津波で社殿が流失した浪江町請戸のくさ野(※くさ=草冠に召)神社が、本格的に再建されることになった。同神社では毎冬、請戸の漁師たちの豊漁と海上安全を祈る「安波祭(あんばまつり)」が開かれるなど、地域住民の心のよりどころだった。請戸地区は震災後、住宅を新築できない災害危険区域に指定され、住民は地区外に離散。関係者は「請戸に人々が生きた証しを後世に残したい」と、来年冬の神社の復活を目指す。

 太平洋から約200メートルの沿岸に位置する同神社は、震災の津波で社殿が全て流失し、宮司ら関係者も犠牲になった。東京電力福島第1原発事故で避難指示が出され、神社や安波祭の存続が危ぶまれてきた。

 しかし2012年に小さな仮の社殿を設置。地元の請戸芸能保存会が江戸時代から続くとされる安波祭の伝統の灯を絶やすまいと、本来は社殿で行う「請戸の田植踊(たうえおどり)」など神社の伝統芸能を、町民が避難する福島市の仮設住宅で続けてきた。請戸地区を含め町の一部地域の避難指示が17年3月に解除されたことで、安波祭は18年から古里で復活。避難先から集まった踊り子たちが華やかな衣装をまとい、津波で荒廃した社殿で優美な田植踊を披露し、古里を追われた住民たちが地域のつながりを確認する場となっている。

 「請戸にはもう住民はいないが、請戸漁港でなりわいを続ける漁師たち、県内外に散った住民の心の支えになる場が必要だ」。富岡町に避難する氏子総代長の五十嵐光雄さん(74)ら神社関係者が再建の準備を進めてきた。神社敷地を含め一帯は防災林として整備される予定だが、「神社を残したい」と県に交渉。今年3月には神社本庁から再建の承認も得た。

 27日、町役場で請戸地区の町民でつくる大字請戸区が会合を開き、出席した五十嵐さんが神社再建の決定を報告した後、神社を訪れた。社殿の基礎がむき出しとなり、津波で破壊された灯籠などが無残に野積みされたままの敷地を歩き、震災前の活気にあふれた請戸の情景を思い起こした町民たち。「復活した社殿でまた、みんなで安波祭が見たいね」。五十嵐さんはそう話し、笑みを浮かべた。