語り部育成「虎の巻」 富岡のNPOが作成着手、高齢化に危機感

 
「語り部の高齢化は震災の記憶を伝えていく上での課題」と育成プログラムの必要性を語る青木さん

 東日本大震災の記憶を伝える語り部活動に取り組むNPO法人富岡町3・11を語る会は、独自の語り部育成プログラムづくりに着手した。きっかけは、震災から11年が経過する中で会員の高齢化が進み「私たちがいなくなったら、誰が語り伝えていくのだろうか」という危機感だ。後進の語り部を育てることができるよう、有識者の助言を得て11月をめどに教材としてまとめ、同じような悩みを抱える県内の語り部団体への提供も視野に入れている。(菅野篤司)

 「4年ほど前から、語り部の世代交代が必要だと考えていた」。語る会代表の青木淑子さん(74)は、富岡町の事務所で胸に抱えてきた思いを語った。

 東京電力福島第1原発事故で富岡町に何が起きたのかを知ってもらいたい―という一念で語り部活動を始めたのは2013(平成25)年4月だった。志を同じくする仲間が集まり、活動の幅も広がった。

 会員は現在も、震災当時の状況や、被災地の復興の歩みを伝える活動を精力的に続けている。ただ、平均年齢は約70歳。それぞれに健康不安を抱えたり、心配する家族から「そろそろ語り部は...」と言われたりする会員も出てきたという。

 他の語り部団体からも「次世代の後継者がいない」との声が聞かれるようになり、語る会による育成プログラムづくりを決めた。

 実効性のあるプログラムにするため、有識者6人でつくる検討委員会で議論を始めた。委員を務める東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(40)=災害伝承学=は「災害の経験を伝えていくのは、生身の人間の言葉を介するのが最も効果的だ」と、語り部育成の意義を強調する。

 佐藤准教授は、どのような災害も語り部の高齢化は避けられず、伝承活動を続けるには「まだ語っていない人が語れるようにすることと、震災を自分が経験していなくても、その経験を語ることができる人の育成という二つの取り組みが必要だ」と指摘。「語り部というとハードルは高いが、紙芝居を作るなどの活動もある。関心を持って気軽に参加できるような雰囲気づくりが大事」と助言する。

 青木さんは太平洋戦争の教訓を、世代を超えて語り伝えている広島や長崎、沖縄の取り組みを育成プログラムの参考にするつもりだ。そして何より、目には見えない放射性物質が地域社会をむしばんでいくという、原子力災害特有の教訓を伝えていくための手法を盛り込むことを目指す。「被災地に移住してきた人や子どもたちに、持続的な取り組みとして語り継いでいきたい」。夢は膨らむ。