【清流あらかわフォーカス<3>】その声は美しさの証し

 

清流あらかわフォーカス流れにある石の上でのどを膨らませて鳴くカジカガエルのオス(矢内靖史撮影)

 「フィー、フィー、フィー」

 甲高く、澄んだ声が荒川上流の谷あいに響く。カジカガエル(河鹿蛙)の名は、鹿のような鳴き声が由来だ。その鳴き声を楽しむために飼育されたり、和歌に詠まれるなど古くから日本人に愛されてきた。

 美しい鳴き声は聞いたことがあっても、その姿を見たことがある人は少ない。灰褐色の地味な体色はまるで岩のようで、近くで見ても気付きにくい。それどころか、近づくことさえ難しいカエルだ。

 鳴き声を頼りに姿を探すのだが、近づく前にぱったりと鳴き声がやんでしまう。目を皿のようにして付近を探しても見つけられない。こつがつかめるようになるまでに数年を要した。

 分かったのは、カジカガエルは人の気配を思った以上に早くから察知しているということ。こちらが存在に気付かないまま5メートルほどの距離まで近づくと、川の水面から顔を出している石の上から水中へと飛び込んでしまう。近づくにはかなり先を見渡して警戒される前に見つけることが必要だ。

 鳴き声が聞こえる繁殖期は、春から夏にかけて。オスが流れにある石の上で鳴きメスを待つ。荒川では水林自然林から上流で聞くことができる。カジカガエルは清らかな流れにしか生息しない。水質日本一の荒川に最もふさわしい生物といえそうだ。

 近づいて撮影できるようになってからも鳴く様子を撮影することは簡単ではなかった。しかし今回、初めて接近して撮影することに成功した。

 身を潜めながらゆっくり近づき、じっと岩のように動かないでカメラを構えていると、すぐそばでのどを膨らませ鳴き始めたのだ。目の前で聞いた鳴き声と水のせせらぎのハーモニーは、例えようもなく美しかった。(矢内靖史)

清流あらかわフォーカス
 カジカガエル カエル目アオガエル科。本州や四国、九州に分布する。体長3~8センチで、メスの方が大きい。繁殖期は5月末~8月。この頃にきれいな鳴き声で鳴くため「清流の歌姫」とも呼ばれる。メスは水中にある石の下などに約500個の卵を産む。オタマジャクシは急流で流されないように水中の岩に張り付くことができる。

 ※毎月1回掲載します