【まち中華物語】日本一食堂・郡山市 声に応えて進化する

 
調理や配膳など息の合った分業で店を回す広美さん(左)と昇一さん(吉田義広撮影)

 赤地に大きな白文字で「日本一」と書かれたのれんをくぐると、元気な「いらっしゃいませ」の声が出迎えてくれる。声の主は伊藤広美さん(63)だ。夫の昇一さん(66)と一緒に店を切り盛りしている。

 菓子店から出発

 昼は近隣の企業や役所に勤める人たちが、おなかを満たしにひっきりなしに来店し、夜は家族連れや一人飲みの客が一日を振り返りながらゆったりとした時間を過ごす。日本一食堂は、地域の住民にとってかけがえのない憩いの場だ。

 それにしても気になる店名の由来を知るには、約60年前までさかのぼる。「もともと、うちはまんじゅうやどら焼きなどを作って販売していたお菓子屋だったんです」。昇一さんによると、昭和30~40年代ごろの郡山市内には「日本一」という名の菓子店が数店あったという。これらは市内の本店からのれん分けしてもらった店舗で、「日本一食堂」もかつては「日本一 麓山店」だった。

 その菓子店が中華料理店になったきっかけは1958(昭和33)年、店の近くに郡山市民会館が建設されたことだった。会館は客席数2千のホールを有し、数々のコンサートが開かれていた。しかし当時は近くにあまり飲食店がなかったため、観客らは食事をするのに難儀していたという。

 「これは商売になるぞ」。昇一さんの父・故昇さんはひらめいた。菓子店の半分を使い、ラーメンの提供を始めたのは60年のことだ。「バカ売れしていたようだ」と昇一さんは当時を振り返る。

 78年には新たな店舗が完成し、店名も「日本一食堂」とした。昇一さんが店を継ぎ、客からの「あれも食べたい」「これも食べたい」との声に応えるうちにメニューも中華料理全般に広がった。82年には広美さんと結婚し、夫婦で店に立つようになった。店にはコンサートの観客だけではなく、出演者もたびたび訪れたという。海援隊の武田鉄矢さんが来店した時には店内に郡山弁が飛び交うのを聞いて、その後のステージで「近くのお店に面白いおばちゃんたちがいたよ」と紹介してくれたという。

 現在は市民会館が老朽化で壊され、区画整理のため店は元の場所に近い場所へと移った。周囲にはマンションも多く立ち、閑静な住宅街へと変わった。それでも今も、昔からの客がなじみの味を求めて足を運ぶ。

 主にフライパンを握るのは広美さんで、昇一さんは出前や配膳、ギョーザを焼いたりと、息の合った分業で店を回す。味の決め手は、豚骨やげんこつ、香味野菜などを3~4時間ぐつぐつと煮込んだラーメンスープだ。ラーメンに使うだけではなく、カレーを作る時にも肉や野菜をラーメンスープで煮込む。味わい深く、コクのあるカレーライスは人気のメニューだ。

 まるで夫婦漫才

 店の近くで接骨院を営む菅野(すげの)智春さん(34)もファンの一人。月に2、3回は来店する。「ボリュームがあり、ほっとする味わいがある。リフレッシュしたい時に無性に食べたくなる」と魅力を話す。

 冗舌な広美さんに対して、口数少ない昇一さん。そんな2人のやりとりを「夫婦漫才みたいだ」と笑うなじみ客もいる。今年で結婚40周年を迎えた2人。コロナ禍で一時客足が少なくなったり、昇一さんも往時のように1日数十件もの出前をこなせないようになってきたりと、さまざまな困難もあったが、「お客さんの顔を見るのが何よりも楽しみ。神様に与えられた仕事なんだと思う」と顔を見合わせて笑う姿に夫婦の固く強い絆が垣間見える。(高橋敦司)

お店データ

日本一食堂の地図

【住所】郡山市麓山1の12の4

【電話】024・932・5441

【営業時間】午前11時~午後2時30分と午後5~7時

【定休日】月曜日

【主なメニュー】
▽ラーメン=550円
▽カレーラーメン=650円
▽もやしラーメン=650円
▽マーボーラーメン=650円
▽餃子(ギョーザ)定食=700円
▽野菜炒め定食=800円
▽カレーライス=650円
▽チキンカツカレー=850円
▽中華丼=750円
▽Aセット(ラーメンと半チャーハン)=850円
▽Bセット(ラーメンと半カレー)=850円

【店主メモ】店の近くにある21世紀記念公園・麓山の杜には四季折々の植物が植えられている。「美しい花々に癒やされます」

チキンカツカレーラーメンスープを使った人気メニューのチキンカツカレー

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。