【まち中華物語】四川料理心・福島市 再燃した情熱届ける

 
妻のさおりさん(左)と二人三脚で店を切り盛りしている鈴木さん(吉田義広撮影)

 一度は離れることを決断した中華料理の世界に戻り、四川料理を手がけている。新型コロナウイルス禍で営業は日中の3時間のみと同業他店と比べても短い。それにもかかわらず、連日営業終了前の入り口に掲示されるのは完売を知らせる看板だ。「うちの味を求めて通ってくれる人たちがいる。料理人としてのやりがいと縁を感じる毎日だよ」。店主の鈴木英孝さん(52)の笑顔が幸せな日々を物語っている。

 知人から洋食屋を営んでいた店舗が空いたとの連絡を受け、店をオープンしたのが2016(平成28)年3月12日。接客を担当する妻さおりさん(45)と二人三脚で切り盛りしており、仕事などの都合をつけた子どもたちも時折手伝いに来てくれる。

 一度離れる決意

 おなかいっぱいに気軽に味わえる中華を―。鈴木さんが10代の頃から大切にする思いだ。提供しているのはセットメニューが中心。看板メニューの麻婆(マーボー)豆腐に加え、味付けにこだわるホイコーロー、担々麺など日によって料理を変えており、さおりさんは「曜日ごとにファンがいる」とほほ笑む。

 静岡県浜松市出身の鈴木さん。調理師専門学校を経て「日本の四川料理の父」として知られる故陳建民氏の流れをくむ浜松四川飯店に籍を置いた。「豪快に調理する料理人の姿に憧れた。どの料理もおいしく、たくさん食べられるのも魅力だね」

 福島との縁は20歳ごろにさかのぼる。同じ店の先輩料理人だった日比野恒夫さんから「福島で中国料理店を開くから一緒に来ない?」と誘われた。福島市に開店した中国料理店「石林(シーリン)」に移り、2011(平成23)年3月に退職するまで、料理長を務めるなど約20年にわたり汗を流した。

 その後、上海料理店に転じたが、鈴木さんが厨房(ちゅうぼう)にいることを知った客から「石林の料理を作ってほしい」と注文を受けることが相次いだ。「新しい店の肩書を背負っているのでそれはできない」。客への断りと店に迷惑をかける心苦しさで料理人の世界から離れることを決意した。

 人との縁に感謝

 知人の紹介で除染の仕事に従事した。妻と育ち盛りの子ども2人を抱え、なりふり構っていられない。「もう料理人に戻ることはない」と決意は揺るぎないかと思われた。

 数年後のある日、知人の依頼でフリーマーケットに出店する機会があった。渋々引き受けたが、手がけた料理を客が味わう様子を見てあの頃の情熱がよみがえってきた。「離れて初めて『俺は料理が好きなんだ』と思い知った」。家族に頭を下げ、再び料理人としての道を歩み始めた。

 店名の由来は、当時中学生だった長男優斗さん(20)の一言がきっかけだった。フリーマーケットで出店を打診された際、鈴木さんから「どんな店名がいいかな?」と投げかけると「心(しん)がいいな」と答えた。料理を通じ、お客さんとの触れ合いを大切にしてほしい―。息子から父に託した願いを今も引き継ぐ。

 四川料理の世界で再び奮闘する鈴木さん。「人とのつながりがなければ今この場に立っていない」。人との縁と感謝を胸に、今日も調理場から明るい声を響かせている。(小野原裕一)

お店データ

四川料理心の地図

【住所】福島市西中央2の97の4

【電話】024・531・8881

【営業時間】午前11時~午後2時 (ラストオーダー午後1時半)

【定休日】日曜日、月曜日

【主なメニュー】
 ◆平日
▽本場四川麻婆ランチ
▽日替わりランチ
▽日替わり麺ランチ
 =いずれも1000円
 ◆土曜日、祝日
▽特得ランチ=1500円
▽麻婆豆腐ランチ=1200円
▽担々麺
▽四川油そば
 =いずれも1000円

【店主メモ】愛車はフォルクスワーゲンのゴルフ。福島市に移り住んだ1990年代初頭に購入し、実家への帰郷やドライブなどで欠かせない30年来の相棒だ。「最初で最後の愛車」と添い遂げることを誓う。

金曜日の日替わりランチの主菜はホイコーロー金曜日の日替わりランチの主菜はホイコーロー。決まった曜日に通うファンもおり、好みの一皿を探す楽しみも魅力の一つだ

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。