【まち中華物語】喜楽屋神龍・会津美里町 ほっとする味と空間

 
リラックスできる場所を目指した店づくりにも心を砕く店主の堤さん(石井裕貴撮影)

 入店した高齢の女性が席に座ると店のスタッフに声をかけた。「こないだはどうもねぇ」。JR只見線会津高田駅前に店を構える会津美里町の「喜楽屋 神龍(シェンロン)」。地域に愛されるお店が提供するのは「食」だけでなく、心温まるコミュニケーションが行き交う優しい空間だ。

 店名由来は漫画

 創業は昭和初期。現在は4代目の堤恵介さん(41)が中心となって切り盛りする。堤さんは料理の専門学校を卒業後、東京の飲食店で経験を積んだ。店名の「神龍」は、十数年前に地元に戻って店を継ぐ際に付け加えた名称で、人気漫画「ドラゴンボール」に由来する。七つのドラゴンボールを集めると出現し願い事をかなえてくれるキャラクター「神龍」になぞらえ、商売繁盛の願いを込めた。店のディスプレーには開店祝いに知人から贈られたドラゴンボールやキャラクターのフィギュアが飾られ、店の一角で存在感を放つ。

 食事をするだけでなく、リラックスできる場所。その思いは店づくりにも反映されている。例えば厨房(ちゅうぼう)前のカウンター席の足元には、竹を設置。靴を脱いで青竹踏みができる。座敷席は窮屈にならないよう掘りごたつにした。個室はおしゃれな内装にまとめている。

 東日本大震災直後や、現在も続く新型コロナウイルスで苦境が立ちはだかると、そばには常連客ら地域の支えがあった。「人のつながりで助けられているといつも思っていますね」。家族連れ、高齢者、学生など店を訪れる幅広いお客との会話は日常の風景だ。テスト期間中の高校生が来れば、景気づけでドリンクをサービスすることもある。大人に成長し、子どもが生まれたと報告に来てくれる若者もいる。客との縁は縦に横にと広がっていく。

 多彩なメニュー

 東京時代は中華やアメリカンダイニング、カフェ、居酒屋など、さまざまなジャンルの職場を経験し、その蓄積は現在のメニューづくりにも生かされている。さっぱりとさせるためにあえて豚でなく鶏を使ったチキンソースカツ丼、会津カレー焼きそば、タコライスなど選択肢は多彩。スリランカ産・激辛カレーで使っているカレーパウダー、チリパウダーは、東京時代に知り合ったスリランカ人を通して現地から仕入れている。

 ただし、あくまでメインは中華だ。人気メニューの一つ四川担々麺は辛さにコクとうまみを凝縮、「辛さだけ」の激辛ブームに反旗を翻すがごとく誰でもおいしく味わえるように仕上がっている。町の魅力発信も食の面から貢献する。町のB級グルメ、美里ホルモンを使ったホルモン定食は先祖代々のたれを使用。ニンニクの効いた醤油(しょうゆ)ベースのみそだれは、継ぎ足して使い続けている秘伝の味だ。

 「商い」とはコミュニケーションであり、人のつながりで成り立っていると考える堤さん。無言の客が券売機で流れていくような形態を否定するわけではないが、神龍では導入することはない。「会話がないとね。そうじゃないとAIとかロボットでできてしまいますよね」とにっこり。年齢、性別、立場を超えて会話が弾む光景は、近くにいるだけで気持ちをほっこりとさせてくれる。(阿部裕樹)

お店データ

喜楽屋 神龍

【住所】会津美里町字柳台甲2331

【電話】0242・54・2326

【営業時間】午前11時30分~午後2時、午後5時~(午後8時ラストオーダー)

【定休日】火曜日(祝日の場合は営業)

【主なメニュー】
▽ラーメン=630円
▽タ四川担々麺=830円
▽会津白べこラーメン=850円
▽みそ野菜ラーメン=930円
▽ホルモン定食=780円
▽麻婆(マーボー)飯=860円
▽チキンソースカツ丼=780円
▽油淋鶏(ユーリンチー)からあげ定食=980円
▽ニラレバ定食=880円
▽スリランカ産・激辛カレー=1100円
▽会津カレー焼きそば=830円
▽タコライス(ドリンク付き)=980円

【店主メモ】ドラゴンボールファン。好きなキャラクターは「多すぎて」選べない。食べ歩きも趣味で、友人と県外まで出向いて名物などを楽しむ。「時間があればどこまでも行くでしょうね」

四川担々麺とホルモン定食

人気メニューの「四川担々麺」(手前)と「ホルモン定食」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。