【まち中華物語】招福萬来みらく・福島市 古里を巣立ち第2章

 
多くの人に愛されている看板メニューの「開運満月餃子」。3代目の渡辺厚大さんが初代の味を守り続けている(吉田義広撮影)

 福島市土湯温泉町から移転オープンして1カ月。のどかな田園地帯が広がる同市荒井に「招福萬来(しょうふくばんらい) みらく」を構える若旦那の渡辺厚大(こうだい)さん(25)は「あっという間の1カ月。店はまだまだ完成形じゃない。料理の提供時間を短くしたり、もっと良い店にしていきたい」と汗を拭った。土湯温泉町に育まれた「みらく」の第2章が始まった。

 化学調味料なし

 1966(昭和41)年、和食の料理人だった厚大さんの祖父克之さんが20代前半で看板を掲げた。当初は「味楽(みらく)」の店名で始まったが、その後、誰にでも読めるようにと平仮名に変更した。妻明子さん(74)とともに、土湯温泉町を訪れる旅行客はもちろん、旅館やホテルスタッフの胃袋と心も満たしてきた。克之さんが48歳の若さで亡くなると、厚大さんの母美由紀さん(50)が2代目を継ぎ、現在は厚大さんが3代目として初代の味を守り続けている。

 店の自慢は化学調味料を使わず、素材の味にこだわること。看板メニューの「開運満月餃子(ギョーザ)」はごろごろとしたキャベツの食感が楽しめる一品で、多くの人に愛されてきた。その中には数日間連続で10人前ほど購入してくれた初代「仮面ライダー」役で知られる藤岡弘さんや、"餃子と言ったら福島県のみらく"とテレビで宣伝してくれたみのもんたさんがいる。

 2008年には、有名シェフに味を気に入られ、日本とオランダの国交400年を祝うパーティーで当時の両国皇太子に餃子を振る舞ったこともある。都内のオランダ大使館で調理した美由紀さんは「胃が痛くなるほどの緊張感だった。餃子をおかわりしてくれたと聞いて、とてもうれしかった」と振り返る。

 人の縁を信じて

 ずっと土湯温泉町にいるのが当たり前だと思っていた。しかし、昨年2月の本県沖地震が状況を一変させた。元々、老朽化していた店舗兼住宅の増築部分がずれ、地盤が緩んで地面からは温泉が染み出していた。新型コロナウイルス禍に伴う経営へのダメージも蓄積する中、厚大さんは移転するしかないと決断した。

 半世紀以上、営業してきた土湯温泉町を離れる心苦しさは想像以上だった。旅館の女将(おかみ)さんや板前さん、そしてたくさんの友人―。なかなか口に出せなかった移転を伝えると、皆、絶句だった。「喜んで送り出したいけど、まだ喜べない。ごめんね」。ある女将さんはそう言って涙を流した。営業最終日の4月3日。美由紀さんは、最後の客となった厚大さんの親友を見送ると、「ありがとう」と言って店の電気を消した。涙が止まらなかった。

 現在の店は、子どもが農業や工作などを体験できる施設「だいこん村」にあり、4月29日にオープンした。近くには農家が多く、農家が育てた野菜などを材料として使う"地域循環型"の店にしたいと考えている。「取れたて野菜ってすごくおいしい。喜んで食べるお客さまの笑顔を生産者も見られることで、みんながハッピーになれる」。厚大さんの夢は膨らむ。

 新店舗には、土湯温泉町時代の常連も数多く来店してくれる。「場所が変わっても縁は切れない」。そう思って移転を決断した美由紀さんは、目の前の現実に少しほっとしている。始まったばかりで不安もあるが、一人じゃない。たくさんの人の応援を力に、これからも腕を振るう。(水野智史)

お店データ

招福萬来みらくの地図

【住所】福島市荒井上庭前1の6(だいこん村内)

【電話】070・8932・8002

【営業時間】
午前11時30分~午後2時(ラストオーダー午後1時30分)
午後6時~同8時(ラストオーダー午後7時30分)

【定休日】月、火曜日

【主なメニュー】
▽ぎょうざ定食=900円
▽カレーぎょうざ定食=1000円
▽筋肉水ぎょうざ定食=1000円
▽豚肩ロース焼肉定食=1200円
▽開運ぎょうざ(5個)=400円
▽開運カレーぎょうざ(5個)=500円
▽筋肉水ぎょうざ(5個)=500円
▽開運満月餃子(4人前)=1600円
▽開運カレー満月餃子(4人前)=2000円
▽しょうゆラーメン=750円
▽温玉きのこバターラーメン=1000円
▽きまぐれ逸品盛り合わせ=770円~
▽豚バラ軟骨ほろトロ煮=600円
▽豚肩ロースのおつまみ焼き=750円
▽塩鶏皮のパリっと串(5本)=800円

【店主メモ】厚大さんの趣味はウエートトレーニング。週5日でジムに通い、140キロのペンチプレスを上げる。厚大さん考案の「筋肉水ぎょうざ」は鶏胸肉がベース。「タンパク質の吸収が良い運動後にぜひ」とPRする。

招福萬来みらく店内にはテーブル席とカウンター席がある。素材を生かした調理が自慢で、餃子はごろごろとした食感を楽しめる

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。