【まち中華物語】中華食宴菜華楼・南会津町 南会津と絆、染みる味

 
中国出身の范さん(左)、高さん夫妻が切り盛りする店は地域のにぎわいの場となっている(石井裕貴撮影)

 「ありがとうございました!」。厨房(ちゅうぼう)で鍋を振る中国出身の店長范海軍(はんかいぐん)さん(45)が威勢よく声を上げる。日本語はまだ勉強中とのことだが、誠実な人柄で地域から愛される存在だ。

 知人の依頼転機

 昼時は「カン、カン」と中華鍋の音と香ばしい香りが店内に広がり、会社員らでにぎわう。南会津町田島で唯一、本格的な味を楽しめる人気店だ。

 店は范さんと、中国出身の妻高秀娟(こうしゅうえん)さん(46)の2人を中心に、理容店や農業など本業の合間に手伝う地元の女性従業員5人で切り盛りしている。

 「范さんがいないと、本格中華も地域の活気もない。人が集まる場所が少ないので、地域にはとても大切な人なの」。2011(平成23)年5月の開店時から働く今泉千加子さん(62)はこう話す。

 店の周辺は田んぼや畑に囲まれ、飲食店は少ない。後継者不足のため閉店する店も多い。范さん夫妻の奮闘ぶりは、地域ににぎわいをもたらしてくれる活力剤となっている。

 范さんと南会津とのつながりは十数年前にさかのぼる。31歳の時に友人の誘いで来日し、東京の有名中華料理店で働いた後、「南会津で北京ダックを提供したい」と知人から依頼を受けて南会津町の温泉旅館で腕を振るったことがきっかけとなり、今がある。

 東京電力福島第1原発事故の影響により一時は東京に拠点を移したが、15年に知人だったオーナーから店を任せられた。「(南会津に)戻ることに不安はなかった。会津の自然と人が好き。おいしい中華料理を届けたい」と范さんは笑顔を見せる。

 店のこだわりは自家製調味料だ。おすすめの一つ「スーラーメン」には、しょうゆベースのスープにラー油やカイエンペッパー、酢のほかに、揚げニンニクや唐辛子、ごまなどを配合したオリジナルの調味料が使われ、深い味わいが魅力だ。

 食材にこだわり

 こだわりは強く、麺は地元と名古屋の製麺所から取り寄せるなど、最良の食材を求めて県外まで足を運んでいる。范さんは他店で食材の勉強をする熱心さで味の探究を続けている。

 それでも忘れず、大事にしているのは日本人に合った味にすることだ。「シンプルで分かりやすい味にしています」。妻の高さんが辛さの一部を抑えるなどの工夫を教えてくれた。

 客のニーズを大切にする店には、自前の弁当を持参し、注文したラーメンと一緒に食べる客もいるほどだ。「できる限りの要望に応えたい。親しみやすい田舎のお店を目指している」とスタッフは口をそろえる。

 新型コロナウイルス禍で落ち込んだ際には、店を助けようと県内外から多くの常連客が足を運んだ。客との絆は強い。「お客さんやスタッフ、多くの人に助けてもらっている。ずっとここで料理を作るよ」と范さん。"南会津の中華"という看板を背負い、地域の思いが詰まった店にこれからも立ち続ける。(中田亮)

お店データ

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【住所】南会津町中荒井字上平1775

【電話】0241・62・5280

【営業時間】
午前11時~午後2時、午後5時30分~同8時30分(平日)
午前11時~午後2時30分、午後5時~同8時30分(土、日曜日)

【定休日】火曜日

【主なメニュー】
▽スーラーメン=920円
▽担々麺=920円
▽五目麺=920円
▽冷やし中華=920円
▽ジャージャー麺=920円
▽薬膳マーボー豆腐=920円
▽エビチリ=920円
▽かに玉=920円
▽チャーハン=740円
▽特製餃子(ギョーザ)(6個)=510円
▽豚角煮=1020円
▽フカヒレ(要予約)=6000円

【店主メモ】趣味は温泉巡り。食材の買い出しを終えた後、温泉で疲れを癒やす。日本のお笑い番組を見るのが好きで、「日本の自然や優しい人柄が私には合っている」と笑顔で話す。

スーラーメン自家製調味料で味付けされたおすすめメニューの「スーラーメン」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。