【まち中華物語】麺飯家龍門・本宮市 新天地、今はホームに

 
店主の小林守さん(右から2人目)と妻智美さん(右)を中心としたスタッフ(石井裕貴撮影)

 おひつで運ばれてくる大盛りのご飯と熱々の中華料理―。加えて汁物、煮物、サラダ、漬物が付いた定食メニューには、訪れた客を満足させる店の"おもてなし"が詰まっている。

 胃袋と心つかむ

 おひつに入っているご飯の量は1人分がどんぶり茶わんでほぼ2杯分。「3、4人で来たお客さんに1人ずつよそうのは手間だと思ってね」と厨房(ちゅうぼう)に立つ店主の小林守さん(53)は明かす。おひつで提供する理由は意外にも省力化だったが、それが働く大人たちの胃袋をつかんだ。

 メニューにご飯の「大盛り」の文字はなく、代わりにあるのは最初と同じ量の「おかわり」のみ。接客を担当する妻智美さん(50)は「初めて来て、大盛りを頼みたいという人に『おかわりならあります』と説明するけど、結局、おかわりする人はほとんどいないですね」と、少し誇らしげだ。

 一方、料理のこだわりについては「ないんだよね」と守さんが一言。お薦めは「全てですね」と、多くを語らない様子からは職人気質がのぞく。20歳から都内の中華料理店や県内のホテル、旅館で「中華一本」で腕を磨いてきた守さんが作る料理は、定番のマーボー豆腐やホイコーローなど40種類以上。本格中華を学んだからこそ、万人に喜ばれる計算されたメニューばかりだ。

 食後のコーヒーやデザートは、どんなに忙しくても智美さんや従業員が客の食べ具合を見て最後に提供する。細かな気配りと明るい接客サービスも客の心をつかんできた理由だ。

 ただ、開店当初は苦労も多かった。店を構えたのは2005(平成17)年7月。守さんが知人から居抜き物件を紹介されたのが独立のきっかけとなった。

 「縁もゆかりもなかったから最初は不安だった」。ともに郡山市出身の夫婦にとって土地勘もなく、知り合いもいない本宮の郊外という立地は、店を認識してもらうまでに時間を要した。

 入れ替わりの多かった物件だったこともあり、客足はなかなか伸びなかった。現在、昼から夜までの通しで営業しているのは、開店当初に認知度を上げるために行った試行錯誤の名残だ。

 地域に支えられ

 地道に営業を続け、5年を過ぎた頃から客が増え始めたという。今では平日の夜や週末は家族連れなど地元住民が多い。消防団や町内会の会合で店を利用してもらうこともあり「ありがたいね」と小林さん夫婦。店内にある龍の木彫りや絵、置物などは店名の「龍門」にちなんで、常連客からプレゼントされたもの。店内は年月とともにアットホームな雰囲気に仕上がっていった。

 店はすっかり"市民権"を得た格好だが、夫婦も19年に晴れて本宮市民となった。その年の東日本台風(台風19号)で郡山市にあった自宅が浸水。この時、物件を探してくれたのが本宮の常連客だったという。夫婦はそのまま本宮市に転居。守さんは「本宮の人の温かさを感じる部分が相当ある」と感謝を忘れたことはない。

 7月14日がオープン日で17周年を迎えたばかりだ。「本宮の人に支えられて続けてこられた。自分も少しでも地域に恩返しができれば」。言葉少なに語る店主からは本宮愛があふれていた。(佐藤智哉)

お店データ

【まち中華物語】麺飯家龍門・本宮市

【住所】本宮市荒井字久保田43の1

【電話】0243・34・2338

【営業時間】
午前11時30分~午後9時(ラストオーダー同8時30分)

【定休日】隔週火曜日

【主なメニュー】
▽マーボー定食=900円
▽ホイコーロー定食=930円
▽レバニラ定食=930円
▽らーめん=680円
▽えびらーめん=900円
▽すーらーらーめん=950円
▽しょうゆやきそば(上海風)=880円
▽五目あんかけやきそば=910円
▽五目チャーハン=850円
▽石焼き五目あんかけ丼=900円
※麺類・チャーハン類は
ハーフサイズあり

【店主メモ】休みの日も店にいるという「仕事人」。店名は「響きが好き」という理由で龍門と名付けた。妻智美さんとは年2回、旅行に出かけてリフレッシュしており、60歳で四国八十八カ所お遍路参りをすることが目標だ。

【まち中華物語】麺飯家龍門・本宮市「中華一本」で腕を磨いてきた守さんが万人に喜ばれる味わいを提供している

          ◇

 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。