【まち中華物語】萬来軒・会津若松市 母の味、世代を超えて

 
2代目社長の鈴木さんは母の味を大切しながら店を切り盛りしている(吉田義広撮影)

 旧河東町から会津若松市の中心部につながる国道49号滝沢バイパスの近くに、中華料理店「萬来軒(ばんらいけん)」の本店・鶴賀店がある。創業はバイパス開通から5年後の1971(昭和46)年。磐越道会津若松インターチェンジ(IC)が92年に開通した後は交通量が少し減ったが、「若松の入り口」にある店として市民らに長く愛されている。

 「ICができて遠方からの客は減ったけれど、地元の常連客が来てくれるのは変わらない」。従業員と店を回す2代目社長の鈴木絹江さん(65)が笑顔を見せた。

 ぜいたくな一杯

 創業者は鈴木さんの母、渡部カネヨさん。中華料理店で働いた経験はなく、料理人を雇って店を開いた。創業前は市内のバッティングセンターで働いていた。鈴木さんは「客に頼まれてカレーやラーメンを作っていたことで、人に料理を振る舞う喜びを感じたのかな」と亡き母の思いを推し量る。

 創業当時、会津に中華料理店はほとんどなかった。開店から数年は、あんかけ焼きそばを出すと「焼きそばなのにソース味じゃないの」と客に言われたという。会津名物のソースかつ丼やカツカレーが並んでいるメニューに、中華料理になじみがない客にも喜んでもらおうと考えたカネヨさんの工夫の跡が見える。

 そんな中、カネヨさんが考案した新メニューが「萬来軒特製ラーメン」だった。大きなエビ、豚肉、キノコなど中華ではおなじみの食材とあんかけを麺にのせた。通常のしょうゆラーメンが280円だった時代に千円で提供を始めたが、ぜいたくな一杯が人気を呼び、看板メニューになった。「この料理をきっかけに本格中華が受け入れられ、あんかけ焼きそばやエビチリの注文が増えていった」と鈴木さんは振り返る。創業から50年がたった今もメニューの追加や味の改良を続けているが、特製ラーメンだけは当初の味のままだという。

 ゼロからの出発

 82年には同市花畑東に千石店をオープン。カネヨさんは「市中心部に店を出したい」という夢をかなえた。しかし9年後、急病のため58歳の若さでこの世を去った。突然の別れで、亡くなった後に店をどうするかカネヨさんと話したことはなかった。専業主婦だった鈴木さんはこの時まで、店に時々顔を出す程度。中華料理店の経営は「ゼロからのスタート」だったが、後を継ぐことに迷いはなかった。

 「母が人とのつながりを大事にする人だったから、お客さんが私のこともかわいがってくれた。母が大きくした店を、なくすわけにはいかないと思った」

 一緒に店に立った時間はわずかだったが「来てくれるお客さんへの感謝を忘れてはいけない」という母の言葉が胸に残る。店を継いで30年。「感謝の気持ちを大切にしてきた」と鈴木さんは振り返る。

 鈴木さんの温かな心が居心地の良さを生んでいるのか、常連客の子が大人になり、地元を離れた後も帰省のたびに訪れることが少なくないという。「新型コロナウイルスで帰省客が減っていたけど、今年の正月や5月に『久しぶりに来たよ』と言ってくれた客がいたのがうれしかった」

 店が母から子へ受け継がれたように、お気に入りの味も次世代へ受け継がれていく。(高崎慎也)

お店データ

萬来軒の地図

【住所】会津若松市鶴賀町2の20

【電話】0242・24・2575

【営業時間】
午前11時~午後3時30分
午後5時~同9時

【定休日】水曜日(祝日の場合は木曜日休み)

【主なメニュー】
▽広東メン=836円
▽味噌(みそ)ラーメン=836円
▽酸辣(スーラー)タンメン=836円
▽五目焼きそば=880円
▽広東風焼きそば=1320円
▽萬来軒特製ラーメン=1320円
▽酢豚定食=1100円
▽キャベ豚定食=1100円
▽エビチリ定食=1155円

【店主メモ】「店が忙しくて趣味を楽しむ時間がない」と苦笑いしながらも、空き時間に韓国ドラマの時代劇を見るのが何よりの気分転換だと明かす。「愛憎劇が面白く、ストレス解消になる」と笑顔で話す。

萬来軒特製ラーメンエビや豚肉、キノコなどが入ったあんがのった看板メニューの「萬来軒特製ラーメン」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。