【まち中華物語】慶慶飯店・田村市 客が喜ぶ幸福重ねて

 
店を切り盛りする店主の片吉さん。今は食材の仕入れを担当し、店を支えている(吉田義広撮影)

 「これからは庶民的な中華料理も食べてもらいたい」。店主の片吉慶吉(かたよしけいきち)さん(70)が高校卒業を前に、そう決意してから50年以上がたった。

 庶民的な味追求

 店の前身は両親が営んでいた食堂。「きがる食堂」を店名に、うどんや和食などをメニューにしていた。主に片吉さんの母ミサさんが調理を担当し、「おふくろの味」を売りにした店だった。

 文字通り「気軽に足を運べる」店として多くの常連客を引き付けていたが、東京で料理修業を積んだ片吉さんが地元に戻ってから、中華料理店としての歴史が始まった。

 現在の店名を思い付いたのは、料理修業を終えて帰郷のために乗った電車内だった。「自分の名前の一文字を重ねておけばいいか」。あっさり決めた店名に願いを込めた。

 「慶」には幸福などの意味があることから、「お客さんに喜んでもらってこそ、料理人も喜ぶことができる。双方が喜べる店にしよう」。両親の理解を得て中華料理をメインに据えた店に変え、「慶」が重なる店を目指して地道に励んできた。

 看板メニュー作りにも取り組み、店名を掲げた「慶慶メン」を打ち出した。ピリ辛あんかけしょうゆ味で、片吉さんが修業時代に習った「中華丼をアレンジしたような」味だ。

 野菜をふんだんに使い、トウバンジャンが味の決め手。あんかけ料理で温かさが逃げず、涼しい日に食べても、額に汗がにじむほどの辛さが売りだ。

 「創業当時は、この辺にはないメニューだった。珍しさもウケて、代表的な料理になった」。品数も豊富にし、麺類や丼物、定食を合わせると30品ほどにした。地元の特産であるエゴマを使った餃子(ギョーザ)も人気メニューに育てた。

 弁当部門も成長

 片吉さんは10年ほど前から、調理場の仕切り役を長年働いている佐藤広行さん(55)に譲った。40年以上にわたり調理場で指導し、「任せられる人が育った」からだ。

 片吉さんの基本的な味付けを守りつつ、佐藤さんが工夫を加えた味を提供する形とした。食材の仕入れが主な役目となった片吉さんは毎朝、市場に足を運び、食材を見極めている。

 前身のきがる食堂から引き継いだ味は、創設した弁当部門でも楽しめるようにした。母から引き継いだおふくろの味と中華を盛り込んだ弁当とし、当初は1日5食からのスタートだったが、現在は1日当たり数百食を提供する部門だ。

 今ではスタッフも増え、大所帯となった。食材の保冷庫が道路を挟んで店の向かい側にあることから、周辺をかっぽう着姿で頻繁に行き来するスタッフの姿は地域の見慣れた風景だ。

 「開店してから慶慶飯店の画数で運勢を調べてみると『全くうけない店名』と分かり、頭を抱えたこともあったが、そうならないで良かった」と笑う片吉さん。『慶慶』の順番は、お客さん、スタッフの順だという。片吉さんはこれからも客を第一に店を切り盛りしていく。(富山和明)

お店データ

慶慶飯店の地図

【住所】田村市船引町船引字北町通29

【電話】0247・82・0236

【営業時間】午前11時~午後9時

【定休日】火曜日

【主なメニュー】
▽慶慶メン=770円
▽ラーメン=650円
▽サンラータンメン=760円
▽上海メン(あんかけやきそば)=830円
▽チャーハン=730円
▽広東メン=770円
▽エゴマ餃子定食=730円
▽鶏の唐揚げ定食=980円
▽カツ丼=900円

【店主メモ】「妻や社員をはじめ、中華料理店を支えてくれる人たちに感謝したい」と語る。期間の短いツアーだったが、社員旅行で香港に行ったことが思い出に残っているという。

慶慶メン看板メニューの「慶慶メン」(右)とエゴマを使った餃子

          ◇

 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。