【まち中華物語】中華DINING龍の壺・福島市 皆が楽しめる本格派

 
カフェのような雰囲気の店で坪池さんが本格的な中華を提供している(吉田義広撮影)

 「一生懸命な姿って格好いいな」。調理学校に通っていた同級生への憧れが中華料理人となったきっかけだ。店主の坪池利明さん(37)が、おしゃれなカフェのように見える店で本格派の中華を提供している。

 印象的な店名は中国の昔話から取った。農民が池に壺(つぼ)を落とすと、池の主の龍が拾ってくれ、さらに壺からおいしい食べ物がたくさん出てきたという昔話だ。坪池さんは「食べ物にまつわる話で縁起がいいと思って店名に決めた。それに自分の名字も掛かっている」と笑う。

 坪池さんが料理の道を志したのは17歳。調理学校に通う中学校の同級生から刺激を受け、手に職をつけようと、料理関係の働き口を探した。そして福島市北沢又の福島西道路沿いで営業していた「中華 桃太楼」(2018年に閉店)に入社した。

 震災で開業遅れ

 桃太楼では11年まで約9年間働いた。盛りの良いチャーハンやラーメン、あんかけ焼きそばなどが看板メニューの繁盛店。「とにかく忙しくて大変な日々だった。先輩方から指導を受けて、中華の基礎を学んだ」。調理技術が上がるたびに中華の魅力にはまっていった。

 09年に妻の恵さんと結婚し、翌10年に独立を決めた。26歳の決断に周囲は心配したが、夫婦での挑戦に迷いはなかった。坪池さんは「今思えば若かった。妻は黙ってついてきてくれた。本当に感謝している。今も一緒に働いていて心強い」と照れ笑いを浮かべる。

 「老若男女、家族連れ、女性客が楽しめる味と店」が理念。恵さんの助言で女性目線のメニューやドリンク、内装を心がけた。開店予定は11年5月。だが、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が起きた。「先が見えない焦りはあったが、後戻りはできない」。資材不足などで開店が同年7月にずれ込み、不安の中の門出だった。

 「実はメニューの多くが自己流なんです」。開店以来、坪池さんの味の追究は続いている。当初は「あさりラーメン」が一押しだった。だが、試行錯誤の末に山椒(さんしょう)がぴりりと効いた「麻婆(マーボー)豆腐」にたどり着き、今では看板メニューとなった。

 「今がやりがい」

 「今の技術のまま、開店当時に戻りたい。もっとお客さんが増えていたはず」と苦笑いする坪池さん。今では常連も増え、地元に根付いた。恵さんは「地元の方々に通ってもらえるようになってうれしい」と思い返す。

 コロナ禍で打撃を受ける飲食店。店も一時は時短営業を余儀なくされ、テイクアウトや弁当、オードブルにも力を入れた。坪池さんは「経営としてはもちろん厳しい。でも、コロナ禍になってから、お客さまに店の味が強く求められていると深く実感できた。『おいしかった』と言ってもらえ、残さずきれいに食べてもらう。今がやりがいを感じている」と語る。

 オープンから11年が経過し繁盛店に育った。「仕事のこだわりは、楽をせず目の届く仕事をすること。お客さんが店を『龍の壺』と感じてくれればいいな」。坪池さんの中華への情熱が「壺中(こちゅう)の天」を生み出している。(国分利也)

お店データ

龍の壺の地図

【住所】福島市大森字高畑7の3

【電話】024・539・6321

【営業時間】
午前11時~午後2時
午後5時30分~同8時

【定休日】
毎週火曜日
毎月第2水曜日

【主なメニュー】
▽四川麻婆豆腐=750円
▽エビのチリソース=800円
▽鶏肉の四川山椒炒め=830円
▽マーボー飯=900円
▽海鮮あんかけチャーハン=1000円
▽サンラータンメン=930円
▽五目あんかけ焼きそば=960円
▽日替わりランチ=900円
▽四川麻婆ランチ=1350円

【店主メモ】趣味はカメラで休日には撮影に出かける。主に県内の自然が題材。メニュー表の料理の写真も自ら撮影している。愛機はキヤノンの一眼レフ。再開通したJR只見線の撮影に行くのを楽しみにしている。

四川麻婆豆腐山椒が効いた人気メニューの四川麻婆豆腐

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。