「負の遺産...実物を展示して」 原子力推進看板標語考案の男性

 
家族と共に伝承館を訪れ、自身が標語を考案した原子力推進を訴える看板の写真を見る大沼さん(右)

 「原子力 明るい未来の エネルギー」。東京電力福島第1原発がある双葉町に約四半世紀掲げられた原子力推進の看板は、写真パネルとして館内に設置された。「写真では心に残らない。実物を展示してほしかった」。同町で小学生時代に標語を考案し、20日に家族3人と伝承館を訪れた自営業大沼勇治さん(44)=茨城県古河市に避難=は落胆を隠さなかった。

 原発と共に発展した町の象徴だった看板は事故後、「安全神話」への皮肉として注目された。大沼さんは看板を「町の歴史が視覚的に分かる『負の遺産』」として館内に実物の設置を求めていた。しかし、縦2メートル、横16メートルと大型のため、希望は実現しなかった。

 大沼さんは前日の19日、妻(45)と長男(9)、次男(7)と共に双葉町長塚の自宅を訪れた。原発事故後に生まれた2人が自宅に行くのは初めてで、大沼さんは事故直後の町の写真を見せながら「この光景と、一緒に成長するはずだった同級生がいたことを忘れないでほしい」と伝えたという。

 伝承館を家族で訪れたのも、看板などの資料を通じ、事故前後の等身大の双葉町を子どもたちに感じてもらうためだ。「原発がもたらす明るい未来を信じたのに、現実はそうはならなかった」と大沼さん。「復興を遂げた古里の『明るい未来』をいつか2人に見せてあげたい」と願っている。