いわき・古滝屋「考証館」3月12日開館 原発事故を住民目線で

 
「皆さんが古里で生きた証しをここに残したい」と語る里見さん=いわき市

 いわき市のいわき湯本温泉古滝屋に3月12日、東京電力福島第1原発事故を住民目線で考える「原子力災害考証館 furusato」が開館する。震災後に住民が主体となって作成した情報誌や被災地の広報誌、新聞のバックナンバーなどを展示予定で、社長の里見喜生さん(52)は「原子力災害に対しさまざまな考えがあるが、事実を伝えなければ未来に教訓を残せない」と思いを語る。

 里見さんは同旅館の16代目。震災と原発事故では、旅館の天井や壁が崩落し、予約は全てキャンセルに。震災から5年目以降の宿泊客数は震災前の約4割にとどまり、現在は新型コロナウイルスの影響もある。

 旅館を復旧させる傍ら、古里の被災状況を伝えようと2011年冬から本格的に語り部の活動を始めた。市内を案内する中で「津波や地震だけでなく、歴史や文化を奪った原子力災害がなぜ起きてしまったのかを考える場所が必要」と思った。里見さんは伝承活動の事例を学ぶため、熊本県水俣市を訪れ、水俣病に関する市の資料館や民間が運営する歴史考証館などを視察。公的施設と民間施設が異なる視点で資料を展示し、補完する重要性を学んだ。

 「民間だからこそ声なき声を拾い上げ、個々の心を伝えたい」。18年2月に都内の学生と協力、原発事故で客が減り使わなくなった約20畳の宴会場の改装を開始。被災地に根付いてきた伝統や文化、暮らしの息づかいを感じる書籍や映画などを収集してきた。

 原発事故に関する施設を観光地で開館することに迷いもあった。「原子力災害を伝えることで放射能という言葉を連想させる。観光に行く場所ではないと思われてしまう」との意見もあった。それでも里見さんは「観光業に携わる者として理解できるが、原子力災害の過ちを繰り返したくない」と開館を決断。一般社団法人ふたすけ(富岡町)のメンバーらと準備を進める。

 同館は、資料の保存をはじめ、展示・思索スペースの提供、意見交換会の開催、双葉郡を中心としたツアーの四つの活動を軸に据えている。「原子力災害で古里を追われた住民が生きた証し、先祖代々から続く文化や歴史の証しを残したい」と里見さん。10年越しに新たなスタートを切る。

 開館は午前10時~午後4時。入館無料。問い合わせは同旅館(電話0246・43・2191)へ。